●カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』(土屋政雄訳)/早川書房/2006年4月発行
日本生まれの英国人作家である著者の最高傑作といわれている作品である。 主人公たちの置かれた境遇が具体的にどのようなものなのか最初は明らかにせず、エンディングに向かって、彼らの秘密を次第にあらわにしていくという説話スタイルは、正直、私の好むところではない(当然ながら前半部では思わせぶりで勿体ぶった筆致が目立つ)が、静謐にして繊細な描写がこの作品世界全体の異様さを一層際立たせている点では巧みな語りといえる。 サイエンスの進展と人間の生命との関係がより重要な課題となってきている現代にあって、書かれるべくして書かれた小説といえるかもしれない。あるいは「自分探し」とやらに悪戦苦闘している現代の日本人が、登場人物たちの葛藤や試行錯誤に自分を重ね合わせたり共感したりする、ということもありうるだろう。
by syunpo
| 2009-01-03 10:24
| 文学(翻訳)
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