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政治劣化の元凶!?〜『世襲議員のからくり』

●上杉隆著『世襲議員のからくり』/文藝春秋/2009年5月発行

政治劣化の元凶!?〜『世襲議員のからくり』_b0072887_19294184.jpg 世襲議員に対する風当たりが強くなってきた。トップに上りつめたお坊ちゃん宰相が力不足を露呈して相次いで政権を放り出したことが世襲政治家の脆弱さを一層印象づけたのかもしれない。実際、日本は他の先進民主主義国と比べても「世襲政治家」が際立って多い。選挙を控えて個々の政党も「世襲」制限の問題を避けて通れなくなってきた感がある。

 本書は、現在も不定期で連載中の雑誌記事をいそいで新書にまとめたものらしく、記述が全般的に大味なうえに、対策を提起している結論部分の詰めがいささか粗っぽいという印象は拭えないものの「世襲議員」の問題を理解するうえでは有益な本だと思われる。

 上杉は本書において世襲候補者のうまみを「三バン」(カバン=金、ジバン=後援会組織、カンバン=ブランド力)の三つの観点から抉り出している。いずれもこれまで断片的には指摘されてきたことであるが、こうして体系的に検証することで世襲候補者の有利が明瞭に浮かびあがり、その弊害をより立体的に理解できることとなった。

 世襲議員の三バンのうち、最大の財産といえるのが「カバン」だ。これは政治資金管理団体の非課税相続という点に集約される。現状では、世襲候補者が新たな政治資金管理団体を作り、そこに資産を移す方法(寄附)と政治資金管理団体をそのまま引き継ぐ方法があるが、いずれも課税されない。安倍晋三も福田康夫も親から無条件で政治資金を「相続」した。選挙に莫大なカネがかかるのは周知の事実、これは非世襲の新人候補に比べれば大きなアドバンテージといえる。
 「ジバン」すなわち後援会組織をそのまま受け継げることも世襲候補者のメリットである。候補者の側からすれば、ゼロから後援会を組織する労力を省ける利得は大きいし、後援会側からしても世襲候補だと組織がまとまりやすく且つコントロールしやすい、という長所がある。
 「カンバン」の力は政治の世界だけに限った話ではないけれど、やはりこの点も軽視できない。本書では石原ファミリーの例などを取り上げているのだが、石原軍団の支援など石原ブランドの力が慎太郎の二人の息子に働いたことは誰も否定できないだろう。

 以上の検証から、著者は対策として「親子間で、政治資金管理団体を事実上、無税で相続してきた悪習」を絶つために政治資金規正法の改正をあげているほか、英国の例を引きながら各政党レベルで候補者選定のプログラムを機会均等の理念に基づいて作ることなどを提案している。
 また世襲制限を何らかの形で法律に書きこむことを違憲とする見解に対しては、「職業選択の自由のようないわゆる経済的自由権に対する規制に対しては、司法の違憲審査権の行使は抑制的であるべきだ、というのが憲法学者の間での通説的見解」との加藤創太・東京財団上席研究員の談話を紹介して、世襲制限法の制定についても前向きな提言を行なっている。

 ただしあらためて思ったのは、世襲議員の問題は意外と根が深いのではないか、ということだ。今でこそいろいろと世襲政治家への批判は強まっているが、そうした候補者を選んできたのは他でもない有権者である。安倍や麻生が首相になったのも国民的人気が背景にあった。
 英国式の公正な候補者選定のプログラムを自民党が作りあげていくことは現状では望むべくもなかろうし、法規制によってカネや組織の安易な継承を減らすことが仮に出来ても、「看板」の威光を崇め続けてきた有権者の浅薄な政治意識を変革していくという課題は残るだろう。

 「相次いだ首相の辞任劇は、世襲政治家の脆弱性の問題ではなく、そうした世襲政治家を量産する日本の政治システムの問題だ」と上杉は述べている。しかり。そしてその政治システムを有権者の多くが直接間接に支えてきたのだ。
 すなわち「世襲議員のからくり」を粉砕するということは、日本の政治そのものを再構築することにほかならない。それは政権交代もままならない日本にあっては一大事業なのだと本書を読んであらためて思ったのだった。
by syunpo | 2009-05-25 19:51 | 政治 | Comments(0)
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