●森政稔著『変貌する民主主義』/筑摩書房/2008年5月発行
現代の日本人にとっては自明の前提のように思われ、それ故に陳腐なお題目と化してしまった感のある民主主義だが、それは当初提起された時には「過激」な思想で、誰もが容易に賛同できるものではなかった。時を経て民主主義が輝かしい生命力をもって人々の道標として掲げられた時代もあった。 政治社会の変化に伴って民主主義が意味する内容もそれを支える政治思想も変貌を遂げてきた。民主主義とは「それだけで自足した規範としてあるのではなく、それが置かれているさまざまな社会関係のなかではじめてその意味が決まるという性格を持つ」(p17)ものなのだ。 政治思想史を専攻する森は、本書において民主主義思想がどのような変化を経験して現在に至ったのか、もっぱら一九六〇〜八〇年代における断絶を重視しながら概観する。「戦後政治学」の頃から比べると、その時期を境に民主主義思想を構成する地平が大きく変化した、というのが森の認識だからである。 何が変化したのか。著者はそれを「四つの視点」として提示する。 自由主義と民主主義との関連を論述した第1章、民主主義における多数者と少数者の問題を扱った第2章、ナショナリズム・ポピュリズムと民主主義との関係を検証した第3章、民主主義と主体性の問題を考察した第4章……という構成だ。 もともと民主主義と人民主権とは別次元の問題であったが、民主主義が「主権」という考え方を取り入れたことで民主主義そのものが大きく変化することとなった、という指摘(第2章)は興味深いし、昨今隆盛のガヴァナンス論に基づく「外部評価」が「自己であることの不安な時代」を映し出したものという記述(第4章)なども面白く感じた。民主主義思想を歴史的に再考するうえでの良き入門書ではないかと思う。
by syunpo
| 2009-06-27 19:57
| 政治
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