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規範と経験の間の政治理論〜『熟議の理由』

●田村哲樹著『熟議の理由 民主主義の政治理論』/勁草書房/2008年3月発行

規範と経験の間の政治理論〜『熟議の理由』_b0072887_1920951.jpg 中央集権的な国家による社会・政治秩序の制御が困難となった時代における原理として熟議民主主義(Deliberative Democracy)を再検討する。これが本書のコンセプトである。
 一般に再帰的近代化の時代において政治理論家が提唱する民主主義の有力な規範的モデルとしては、他に闘技民主主義がある。熟議民主主義が理性的な合意形成とその過程における「選考の変容」を重視するのに対して、闘技民主主義は政治における対立の局面を重視する。田村は闘技民主主義理論の成果をも参照しながら熟議民主主義の可能性を追求するというスタンスをとる。

 一般に熟議民主主義のあり方としては、ユルゲン・ハーバーマスの「複線モデル」(国家と市民社会とを媒介し、意思決定と意見形成とを区別する)がよく取り上げられるが、本書で注目されるのは、非制度的次元における熟議の重要性を提起している点にあるだろう。家族など親密圏における熟議、あるいは「脱社会的存在」を社会の側に引き寄せるための熟議……などなど。

 もっとも熟議民主主義の具体的なスタイルがどういうものであるのか、本書の記述だけでは今一つわかりにくい。著者自身も「理念はわかったが、どうやって実現するのか」という疑問がしばしば提起されることに触れて、熟議民主主義の「具体的な制度のあり方を考えていくことが、熟議民主主義の深化のために不可欠である」との認識を示している。本書では実例として「アソシエーティヴ・デモクラシー」と「熟議の日」について言及しているのだが、理念モデルとしての議論の白熱ぶりに比べるといささか迫力に欠ける印象を拭えなかった。

 本書は、横書きでページごとに注釈が添えられ、いかにも教科書風の作りになっている外見からもわかるとおり、叙述内容も一般向けというよりも、政治学や政治理論に一定程度の素養をもつ読者を想定していると思われる。
 熟議(討議)民主主義についてのかみ砕いた概説的な書物を求める一般読者ならば、本書にも引用されている篠原一の『市民の政治学——討議デモクラシーとは何か』(岩波新書)あたりから入っていく方が無難だろう。
by syunpo | 2009-07-17 19:41 | 政治 | Comments(0)
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