●森達也著『きみが選んだ死刑のスイッチ』/理論社/2009年5月発行
若年層向けの《よりみちパン!セ》シリーズの一冊で、テレビディレクターの森達也が日本の司法制度について「罪と罰」「冤罪」「裁判員制度」「死刑」の四つの章立てでレクチャーした本。 近代司法制度の根幹をなす「罪刑法定主義」や「無罪推定原則」などを平明に解説する一方で、検察の自白偏重やマスメディアの扇情的な事件報道など現在の日本に特徴的な問題点を同時に指摘している。また今年から始まった裁判員制度については否定的な立場から疑問を投げかけているほか、死刑制度に関しても廃止の立場を鮮明にしながら判断材料とすべき具体的な事実を提示している。死刑囚が吊るされてから絶命するまでの平均時間は「ほぼ十四分前後」というのは、ちょっと意外な事実だ。(出典が明記されていないのは残念。) 死刑囚が立つ床板が外れるスイッチを押す刑務官は三人または五人。実際に回路がつながっているのは一つだけだが、人を殺すという罪の意識を一人に背負わせないための措置である。それでも精神を病んでしまう刑務官は少なくない、という。 クラスでのホームルームの情景から国家の司法制度へと話を進めていく構成はなかなか良く出来ていて、とかく一般市民からは縁遠いと言われてきた司法制度の問題をわかりやすく概説しようというコンセプトは実現されているように思われる。 「少なくともこれまで歴史に現れた多くの政治体制や思想に比べれば、絶対的に正しい」(p66〜67)、「民主主義の基本理念は多数決だ」(p68)……などなど「民主主義」に関する記述にいささか乱暴な断定が散見されるのには引っ掛かったが、現在の日本社会が抱える司法制度の課題が簡潔にまとめられていて、大人の読書にも充分にたえる本ではないかと思う。
by syunpo
| 2009-07-22 19:23
| 憲法・司法
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