●山口昌男著『学問の春』/平凡社/2009年5月発行
人気の文化人類学者が一九九七年に札幌大学文化学部で行なった講義をまとめた本である。十二回に渡った講義を十章に再構成し、それぞれに編者が「講義ノート」として注釈的なコラムを付けている。講義のベースになっているのは、ヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』。「遊び」の視点からなされた比較文化論の古典ともいえるテキストである。 ホイジンガの背景にあるオランダのライデン学派の解説や人類学の歴史など基本的なことを押さえつつ、『ホモ・ルーデンス』の中心的概念である原始的二元論や祭儀的遊戯をめぐって、話はシェークスピアの戯曲や宮沢賢治の童話など縦横無尽に広がっていく。山口の学風そのままに〈知と遊び〉の愉悦感が伝わってくるような講義内容である。 アメリカ先住民のポトラッチ(贈り物を交換しあう習俗)を取り上げたくだりでは、その「復讐」的な要素や「至高性」を捉えて日本の忠臣蔵や心中物へと考察を進めたり、「原始的なはずみ、昂奮」的な側面からハローウィンに言及するなど、山口の脱領域的な知のあり方は本書においても遺憾なく発揮されている。 ポトラッチ的な贈与儀礼においては、個人や集団間のコミュニケーションの凝縮した形としてあらわれるのであり、相手に対する「尊敬」の念が可視化される、という指摘はたいへん興味深い。 また「文化とは危機を排除するのではなく危機に直面する技術」というウンベルト・エーコの言葉をもとに共同体における通過儀礼を考察している第七講、トリブリアンド諸島におけるクラ交易に「遊び」の精神の神髄を見出す第十講なども山口流の知のエッセンスが詰まっているようで面白く読んだ。
by syunpo
| 2009-09-25 20:47
| 文化人類学・民俗学
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