●宮台真司、福山哲郎著『民主主義が一度もなかった国・日本』/幻冬舎/2009年11月発行
今夏の政権交代を歴史的にどう意義づけるか。すでに多くの論考が提起されてはいるが、ここでは鳩山政権で外務副大臣に就任した政治家と今をときめく社会学者による対論という形であらためて示されている。 宮台の見立てによれば、先進各国の政治経済システムは、今や、官僚主導の密議的な「権威主義」と開放討議を旨とする「参加主義」の対立、自由競争に基づいた「市場主義」と財政による再配分を重視する「談合主義(コーポラティズム)」の対立——という二本の対立軸・四つの象限によって俯瞰することができる。 小泉政権は自民党が従来採ってきた「権威主義的ー談合主義」を「権威主義的ー市場主義」へとシフトさせたものと捉え、宮台はこれを批判する。日本が進むべき道は「参加主義的ー談合主義」であって、民主党政権はそうした分類に適うものとして期待を寄せるのである。 この変化をもっとわかりやすくいえば「お任せ政治」から「引き受ける政治」への転換といってもいい。「陳情」から「ロビイング」へのチェンジを促す政治とも言い換えられる。私たちが選ぶべきは富の分配に采配をふるう「有力者」ではなく「政策を実現する人」となったのである。 もっともこうした言説にとくに斬新さがあるわけではない。 宮台の真骨頂は、たとえば環境問題に対する姿勢に最も顕著にあらわれているのだが、「温暖化対策」を完全な政治・外交問題と認識して、新たに設定されつつある国際交渉の土俵にいち早く参入し主導権を握ることこそが国益に資する、というように論争のある懸案についても政治的功利を強調している点にあると思われる。いうまでもなくその観点から国連気候変動サミットでの鳩山演説も評価される。 対して、福山の方はその極めて具体的な内幕話に面白味が感じられた。 たとえば、外務官僚が大臣・副大臣・政務官に別々の情報や決裁書類を持ち込んで「分断」を企てたり、事務方の調整をすっ飛ばして副大臣・閣僚間で容易に連絡し合うのに官僚が驚いたり……という逸話からは自民党政治の残滓が感じられてまことに興味深い。 また政治家によるマスコミ批判には陳腐なものが少なくないが、前政権下で中期目標検討委員会が温暖化対策を強化した場合に家計に与える影響を試算したシミュレーション(可処分所得が年額三十六万円減少する)のインチキ性を指摘したうえで、その試算を前提に民主党政権の環境問題政策に懐疑の目を向けるメディアの姿勢を批判しているのは大いに説得力を感じさせる。その批判にメディア側はどう応えるのか是非聞いてみたいと思った。 宮台のやや尊大な語り口調には抵抗を覚えないではないが、政治へのアパシーを醸成するとしか思えない冷笑的な言説が蔓延る昨今、二人の対論は充分に「参加主義」へと誘うものといえるだろう。
by syunpo
| 2009-11-30 18:38
| 政治
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