●上野千鶴子、辻元清美著『世代間連帯』/岩波書店/2009年7月発行
今や日本では、社会的弱者が互いにいがみあうような状況が生み出されている。ロスジェネの男性が「負け犬」の女性を、行き場のない若者がホームレスを、孤立した青年が罪のない子どもたちを、派遣切りの男性が「誰でもよかった」無防備な人々への無差別な攻撃を加える負の連鎖。 年金制度の場あたり的なパッチワークや後期高齢者医療制度に象徴的にあらわれているように、自公政権の政策はそのような世代間の分断を顕在化し助長するような性格をもっていた。メディアもまた世代間の対立を煽ってきた。 本書は、そのような世代間対立に終止符を打たんとして、政治家と社会学者が一年間をかけて語りあった記録である。テーマは、仕事、住まい、育児、教育、医療、介護、年金、税金、経済……そして「社会連帯」。 政治の失敗や市場の失敗、家族の失敗を補完するようなNPOなどの「市民事業体」の活動に希望を見出す二人の問題意識は従来どおりである。また地域共同体が解体したのは必然的だとして、かつてあったような共同体の復活を目論むことも斥けられる。それに代わるオルタナティブをつくるしかない、と上野はいう。 やや意外に思ったのは、辻元がお約束どおり「あらゆる公教育の無償化」を主張するのに対し、上野が大学教育の無償化に反対を明言しているくだりだ。 一八歳で大学に入学を許可されたすべての学生に無条件で学資ローンの資格を与える。授業料だけでなく(アルバイトをしなくて済むように)生活費込みの支給をする。四年間で一千万円くらいの債務を負うことになるが、それくらいの覚悟で大学に進学すべし。教育を親の子どもに対する投資から社会全体の投資へと置き換える際に狭義の「受益者負担」の原則を織り込む。それが上野の考え方である。 そうなるとおのずと大学生と大学の淘汰が進み、カネになるかどうかわからない基礎的学問は衰退し、良くも悪しくも大学の職業訓練校化が加速することが予想されるけれど。 辻元の発言は上野に比べるとやや理念先行型ながら随所に具体的なデータを示して勉強家ぶりを発揮しており、個々の主張に異論はありうるとしても、この種の対談本にありがちな大味な印象を受ける場面は少なかった。
by syunpo
| 2009-12-20 09:26
| 政治
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