●ベネディクト・アンダーソン著『定本 想像の共同体——ナショナリズムの起源と流行』(白石隆、白石さや訳)/書籍工房早山/2007年7月発行(増補新版)
ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』は今や「新古典」的な地位を確立したテクストであるが、何度か改訂されている。一九八三年に初版が刊行された後、一九九一年に改訂増補版、さらに二〇〇六年に書き下ろし新稿を加えて新しいバージョンが刊行された。本書はそれを訳出したものである。 国民(ネーション)とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である。そして、そのような想像を何にもまして促進し、実りあるものとしたのが出版資本主義(プリント・キャピタリズム)であった。——これが本書の結論であり、日本でも引用される機会は多い(原書の翻訳を世界に先駆けて出版したのが日本である。)ので、本書を読んでいない読書人の間でもこの命題だけはよく知られていることだろう。 一般に出版によって規範化された言葉は、その言葉を読み書きする数十万、数百万の人々に相互了解の可能性をもたらし、国民的なものと想像される共同体の胚を形づくった。 出版語の固定化と口語間の地位分化は、本来、資本主義や技術、人間の言語的多様性の爆発的な相互作用が生み出した多分に無自覚的な過程ではあったが、ひとたび出版語が出現すると、それは模倣さるべき公式のモデルとなり、マキアヴェリ的な便宜主義によって意識的に利用されることとなった。 アンダーソンが秀でているのは、そうした歴史的過程をヨーロッパのみならず、アジアや南北アメリカ大陸など広範な視野をもって分析している点にある。 その切り口の鮮やかさ故に、懐疑的・批判的に読み解いた論考も少なからず提起されてはいるものの、やはりナショナリズムを議論する際には避けて通ることのできない本だろう。 なおニューエディションで追加された〈旅と交通〉は、『想像の共同体』の刊行以来、翻訳書や海賊版がいかに広まっていったのか、「出版資本主義」の力を解析した書物の、文字どおり出版資本主義的拡大の過程をトレースしたものである。
by syunpo
| 2010-03-07 10:02
| 思想・哲学
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