●佐和隆光著『グリーン資本主義』/岩波書店/2009年12月発行
地球温暖化対策は経済成長を鈍化させ、失業率を高め、家計を圧迫する——。佐和は巷間に流布するそうした「通説」に真っ向から立ち向かう。むしろ気候変動の緩和策を講じることは「決して経済にとっての重荷ではない。のみならず、この制約を打破するための技術革新がエコ製品を生み出し、その普及が、これからの経済成長を牽引するだろう。もっと言えば、先進国経済のこれからの成長を牽引するのは、環境『制約』の克服に資するエコ製品の開発・普及を措いて他には見当たらない」(p47)と断じるのだ。 たとえば、環境税(炭素税)の導入は、それを温暖化対策(エコカーの取得・保有税をタダにする、エコポイント基金を増額する等)に充てるならば家計消費支出の減少を補って余りあるメリットが得られる可能性が高い。 また太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーを電力源として活用する場合、送配電網系統が不安定化するという問題点があり、その対策が必須となる。それは大規模な設備投資を伴うものだが、それを公共事業として行なうことで雇用が創出され、経済成長にも貢献できると著者は主張する。 地球環境の保全を第一義とする新しい経済システム。これが著者のいう「グリーン資本主義」である。 経済の「グリーン化」を力説するのに、勢いあまって、今後の日本が目指すべき路線として「日本はソフトウェア産業のいずれをも不得手としている」のだから「ハイテク省エネ製造業に『特化』するべきである」といった主張をするなど容易には肯んじえない箇所も散見されるものの、良くも悪しくも環境問題に積極的に取り組んできた環境経済学者としての特長がよくあらわれた一冊だといえる。
by syunpo
| 2010-03-29 18:29
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