●神野直彦著『「分かち合い」の経済学』/岩波書店/2010年4月発行
格差が拡大し、世代間の対立がより深刻さを増している日本社会の統合をどのように実現していくか。本書は菅直人首相のブレーンの一人として知られる財政学者による未来への提言の書である。キーワードは「分かち合い」。スウェーデンの国家政策を一つのモデルと仰ぎながら、限られたパイを奪い合う自由競争の社会ではなく「分かち合い」の経済で運営していくことを強く訴える。財政の基本理念としては、同じく民主党に近い山口二郎が力説している「リスクの社会化」などと大筋においては重なるものだろう。 新自由主義の批判に多くが費やされる前半部は率直にいって退屈だったが、「分かち合い」の経済の具体的なあり方を説く後半部に入って何とか面白くなる。 政府が富の再分配を行なうとき、どのようなやり方が「分かち合い」の理念に最も適合するか。神野は、たとえばコルピの「再分配のパラドックス」を紹介する。貧困者に限定した現金給付を手厚くすればするほど、その社会は格差が激しくなり、貧困が溢れ出るという逆理的な命題である。 その流れで、スウェーデンの成功例を引きながら「中央集権的な現金給付による垂直的再分配から、サービス給付による水平的再分配へシフトさせる必要」を説く。 ただし「再分配のパラドックス」に関しては、そのメカニズムについての説明がやや不足していて、財政学の基礎知識に乏しい一般読者には消化不良感の残るような叙述なのが残念。 全般的には最小不幸社会を謳う民主党政権とは親和性の高い政策提言だと思われるが、肝心の菅首相が、最近、法人税減税など旧来の新自由主義的な政策を強調しだしたのを神野はどう見ているのだろう。
by syunpo
| 2010-09-20 19:15
| 経済
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