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カフカ的な、余りにカフカ的な!?〜『流刑地にて』

●フランツ・カフカ著『流刑地にて』(池内紀訳)/白水社/2006年7月発行

カフカ的な、余りにカフカ的な!?〜『流刑地にて』_b0072887_1845563.jpg 本書には表題作のほか〈判決〉〈火夫〉、短篇を集めた〈観察〉が収録されている。いずれも生前に発表されたものである。

 〈流刑地にて〉はいかにもカフカらしい気味の悪い、しかしどことなく滑稽味をも感じさせる不思議な作品だ。
 学術調査の旅行家が流刑地の島を訪問し、ある兵卒の死刑執行に立ち合うことになる。そこには奇妙な執行機械があった。その機械についてカフカは詳細に立ち入って描写している。機械は三つの部分からできていて、それぞれあだ名で呼ばれている。下の部分が「ベッド」、中間部が「馬鍬」、上の部分が「製図屋」。「ベッド」に縛りつけられた囚人を「馬鍬」によりつけてある針が「製図屋」の指図のままに刺し「上官を敬うべし」などと身体に刻み込むのだ。

 死刑を執行する将校は、旅行家に機械のことや刑の執行方法について詳しく説明をほどこす。そもそもこの機械は将校が崇拝する前司令官が発明したものだが、現司令官はこの死刑方法に疑問を呈して予算を縮減している。将校は旅行家に現在のやり方を認め自分の後押しをしれくれるように依頼する。旅行家が拒むと、将校はいきなり囚人を放免して自ら機械の下に横たわり、機械の性能を証明しようとする。しかし機械は巧く作動せず、針が将校の身体を突き刺し、将校は死んでしまう……。

 カフカは労働者傷害保険協会に勤務していたので、労働現場における機械一般にはそれ相応の知識をもっていたらしい。協会の年次報告書に毎年のように寄稿していた。そこに発表した〈新式製材機の扱い方〉は、カフカの署名入りで活字になったもっとも早い文章の一つということだ。〈流刑地にて〉は明らかにカフカのそのような職歴が活かされた作品といえよう。
 ところでカフカは生涯に一度だけ自作朗読会をやったことがあり、その時に朗読したのが〈流刑地にて〉だったという。朗読中に三人が失神して、会場から運び出された。
 ナチス・ドイツが成立したのは、この小説が書かれて二十余年後のことである。
by syunpo | 2011-08-01 18:51 | 文学(翻訳) | Comments(0)
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