●廣瀬純著『蜂起とともに愛がはじまる 思想/政治のための32章』/河出書房新社/2012年1月発行
思想と映画を同時に論じながら、それを通じて来るべき運動に呼びかける。『シネキャピタル』でユニークな視点から映画論を展開した著者ならではの縦横無尽な筆致は本書においていっそう冴え渡っているように感じられる。 ヒッチコックの《鳥》と赤瀬川原平の《宇宙の缶詰》とヴィルノを同列に並べながら〈革命/反革命〉を論じる。労働するのと同時に詩を書くように、できる限り多くの「持続」を生きることを描いた作品として小津やデ・ホーホに言及する。かと思えば、ドゥルーズ=ガタリの《アンチ・オイディプス》をマクラに振って「脱コード化」をキーワードに山中貞夫を語る。 そのような廣瀬の自在な批評精神の底流を貫いているのは「すべての人がすべてについて語る」ことを唱えたジャック・ランシエールの民主主義理論である。彼にとって、平等が全面的に実践され実証されることになるのは、すべての人がすべてについて語るとき、すなわち、一人ひとりの個人が文字通り「すべての」事柄について自分の考えを表明するときだけである。 無資格の資格で個々人が意思表明することによって諸資格の固定的な役割配分を撹乱させ転覆させること。ランシエール=廣瀬はそこに「政治」の可能性を見出す。 しかし廣瀬はそれだけにとどまらない。ランシエールの主張からさらに一歩すすめて「思考し得ぬものを思考すること」を訴え、そのことによって「知力の解放」「知力の蜂起」を目論もうとするのだ。 廣瀬の主張はところどころ言葉不足で私にはいささか難解な個所もあったけれど、それを差し引いても知的刺戟に充ちた批評集といえるだろう。
by syunpo
| 2012-03-06 21:39
| 思想・哲学
|
Comments(1)
|
検索
記事ランキング
以前の記事
カテゴリ
全体 思想・哲学 政治 経済 社会全般 社会学 国際関係論 国際法 憲法・司法 犯罪学 教育 文化人類学・民俗学 文化地理学 人糞地理学 地域学・都市論(国内) 地域学・都市論(海外) 先史考古学 歴史 宗教 文化全般 文学(小説・批評) 文学(詩・詩論) 文学(夏目漱石) 文学(翻訳) 言語学・辞書学 書評 デザイン全般 映画 音楽 美術 写真 漫画 絵本 古典芸能 建築 図書館 メディア論 農業・食糧問題 環境問題 実験社会科学 科学全般 科学史 生物学 科学哲学 脳科学 医療 公衆衛生学 心理・精神医学 生命倫理学 グリーフケア 人生相談 ノンフィクション ビジネス スポーツ 将棋 論語 料理・食文化 雑誌 展覧会図録 クロスオーバー 最新のコメント
タグ
立憲主義
クラシック音楽
フェミニズム
永続敗戦
ポピュリズム
日米密約
道徳
印象派
マルチチュード
テロリズム
アナキズム
想像の共同体
古墳
イソノミア
社会的共通資本
蒐集
闘技民主主義
厳罰化
規制緩和
AI
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||