●吉見俊哉著『大学とは何か』/岩波書店/2011年7月発行
大学とは何か。あるいはその存在意義とは? こうした問いかけが政治の側さらには社会全体からある種の猜疑心とともに投げかけられている現在、それに応えることは今まで以上に切実な意味を帯びてきているように思われる。 本書はその問いに直接的な答えを出すことよりも、そのような問いが成り立つ複数の地平の歴史的変容を捉えようとするものである。 キリスト教世界と中世都市のネットワークを基盤とした大学の中世的モデル、国民国家を基盤とした近代的モデル、日本における帝国大学モデルの歴史を検討した後、近代的モデルのヴァリエーションとして発展した米国の大学モデルと日本への影響をみていく──というのが本書の大まかな構成である。 興味深いのは、中世ヨーロッパに生まれた大学をめぐる叙述である。それは今日につながる意味での「大学」の発祥といえるものだが、都市から都市へ移動する人々が協同組合としての大学を誕生させたという史実は今日から見ても極めてスリリングである。 吉見自身も新しい大学概念を構築していくうえで、この中世モデルを参考にしている。移動性。汎ヨーロッパ的な共通性。一神教的な神への次元とアリストテレス的な自然への次元の融合。これからの大学が要請されるのは、近代国民国家と連動してきた教養ではなく中世の「自由学芸」に近い新たな横断的な知の再構造化ではないか、というのである。 無論それだけでは限界がある。メディアとしての大学という次元でみた場合、出版メディアをうまく取り込めなかった中世的モデルはやはり強力な参照点にはなりえない。 新しい「自由=リベラル」にポスト国民国家時代の形を与えていくこと。その点について私たちは未だ明確なビジョンを描くには至ってはいないが、本書の記述が大きなヒントを与えてくれていることは確かだろう。
by syunpo
| 2012-09-24 19:09
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