●杉田敦著『政治的思考』/岩波書店/2013年1月発行
本書は政治を考えるにあたって重要な概念を八章に分けて語りおろした本である。新書ということで、先人たちの知見をベースに構成した政治学の入門書的な内容といえる。いちいち具体名は挙げられていなけれど、批判的な言及を含めて参照されていると思われるのは、ジャン=ジャック・ルソーの社会契約論、ジョン・ロールズの正義論、ミシェル・フーコーの生権力論、トマス・ホッブズ、ハンナ・アレント、丸山眞男、佐々木毅、齋藤純一、東浩紀、湯浅誠などなど多岐にわたる。 談話を文字に起こしたもので、難解な政治学用語を斥けた語りは平易そのものだが、率直にいって内容的には薄味。Aという主張には正当なところもあるがダメなところもあるという物言いが目立ち、──良く言えばバランスの取れた、悪くいえば煮え切らない──自身の見解を声高に言明するというよりも交通整理的な発言が基調を成している。 その中でちょっと面白く感じたのは、〈決定〉と題された第一章で政治の速度に言及しているくだりである。決定の内実をあまり問わない決断主義が一定の支持を受けている現在の状況に苦言を呈したうえで著者は次のように述べる。 しかし、権限をもつ誰かがさっさと決めるのではなく、みなで議論して決めるようなやり方に、意味はないでしょうか。実は、早い流れに抗することそのものに意義があるのではないか。…… ……時代の流れに乗って早く決めなければならない、政治ももっとスピードアップするべきだという考えは、政治の否定につながります。政治の大きな存在意義は、そうした流れに逆らうところにあるのではないかと思うのです。(p27) 民主政のまどろっこしさを指摘する言説は政治学ではありふれたものだが、杉田はそれを積極的に評価しようとするのである。無論、災害などの有事の際には政治決断にスピードが求められることもあるだろうが(杉田もそれを否定はしないだろう)、「選んだ政治家には白紙委任してもらうことも必要」と公言している政治家が人気を博している現状をみていると、あるいは効率やスピード感を良しとする市場原理が幅を利かせている状況を鑑みると、杉田のこうした「政治的思考」は論争含みであるとはいえ傾聴に値するように思われる。
by syunpo
| 2013-02-13 18:47
| 政治
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