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激動の社会状況と格闘した思想家たち〜『歴史という皮膚』

●苅部直著『歴史という皮膚』/岩波書店/2011年3月発行

激動の社会状況と格闘した思想家たち〜『歴史という皮膚』_b0072887_811534.jpg 本書は日本政治思想史を専門にしている苅部直の小論を集めたものである。個別の学者にスポットをあて、その思索の特徴を当時の社会・思想的背景から浮かび上がらせる、といった趣旨の論考を中心に収めている。

 第二次世界大戦前夜、日本でも流布したユダヤ・フリーメイソンリー陰謀説に抗って、敢然とフリーメイソンリーを擁護した吉野作造。カントの世界平和構想を下敷きにしながらも民族と天皇を重視する恒久平和論を展開した南原繁。幕末から明治初期にかけて「利欲世界」の風潮が強まるなか、「公共之政」へと向かう道筋を説いた儒学者の横井小楠と元田永孚……。

 彼らの主張や構想は今日からみれば当然肯んじ得ない点も少なくはないものの、社会の変動期に活躍した人々の思索の跡をたどることは現代人の政治的思考を相対化し錬磨していくうえでは意義深いといえるだろう。研究者らしい手堅い筆致で一般読者にはさして面白い読み味の本ではないが、福沢諭吉を「怨望」の観点から論じた一文にはあらためて福沢への関心を喚起させられた。
by syunpo | 2013-06-01 08:15 | 政治 | Comments(0)
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