●ネルソン・グッドマン著『世界制作の方法』(菅野盾樹訳)/筑摩書房/2008年2月発行
二〇一一年に大阪・国立国際美術館で開催された《世界制作の方法》展は本書からタイトルをそのまま借りたものである。その企画展を観たときに本書を購入したのだが、数ページ読んだところで放り出して、その後は積ん読状態。この度ふと読んでみようという気になり、何とか最後まで読み通してここに取り上げる次第である。 本書の命題は比較的容易に要約することができる。いわく、体系を構成するための認識論的「所与」なるものは存在しない。世界は多数存在する。数多くの異なった世界=ヴァージョンがある。そして何よりもヴァージョンとは制作されるものなのである。 ……世界が発見されるものであるのに劣らず制作されるものでもあるとすれば、知ることは報告することであるばかりか、作り直すことでもある。私が論じた世界制作のあらゆる工程が知ることに関与している。すでに指摘したように、運動を知覚することは、しばしばそれを生み出すことである。法則を発見することは、それを起草することをともなう。パターンを認識することは、ほとんどパターンを発明し押しつけることである。理解と創造は手を携えているのである。(p49) 藝術は、発見、創造、そして理解の前進という広い意味で解された知識拡張のさまざまな様態である点で、科学同様、あるいはそれ以上に真剣に解されねばならないこと、したがって藝術哲学は、形而上学と認識論を統合する一部門とみなされるべきであること……(p185) 以上のような世界観・藝術観はとりたてて斬新というほどのものではないだろう。訳者の解説によれば、本書にみえる複数性の肯定はカルナップの論理的構文論の影響を受けたものというし、科学を論じるときと同じ原理で藝術を論じようとする構えはカントを受け継いだものと思われる。とはいえ「世界はあるのではなく制作される」という本書のメッセージが芸術家やクリエイターたちをそれなりに鼓舞するものであったこともまた想像にかたくない。そのことは東洋の島国におけるアート展にその書名が採用されたことからも充分にうかがい知ることができよう。
by syunpo
| 2014-06-12 20:17
| 思想・哲学
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