●成田龍一著『戦後日本史の考え方・学び方 歴史って何だろう?』/河出書房新社/2013年8月発行
河出書房新社〈14歳の世渡り術〉シリーズの一冊。歴史とは何か、という歴史学にとって本質的な問題を戦後日本史の叙述をとおして考えようというのが本書のテーマである。とくに目新しいことが書いてあるわけではないが、歴史学への誘いとしてはよき入門書といえるかもしれない。 高度経済成長時代を永山則夫の視点でみた場合、そこには映画『ALWAYS 三丁目の夕日』に描かれたほのぼのとした風景とは一味も二味も違った景色が見えてくる。永山則夫は犯罪者であるが、転職を繰り返して苦労したという面では、当時の若者の労働状況を反映してもいる。統計によれば、一九六七年の中卒の就職者のうち三年以内に転職したものは、五二%。つまり永山の転職は集団就職した若者たちのなかでは決して特別なことではなかった。 戦前・戦後史を沖縄からみた場合、あるいは女性の観点から見た場合も、もっぱら「本土」や「男性」のの視点から素描されてきた歴史とはまったく趣の異なったすがたが立ち現れることになるだろう。 ……ある視点から語ったときに、何か見えなくなっているものがある、隠されてしまうものがあるということに気がつくこと。そのことが頭にあるのとないのとでは、歴史への姿勢はまったく異なるものになるということ……(p147) 私たちが学んできた歴史は、中心・中央の「われわれ」の戦後史であって、周縁の・他者の戦後史ということを考えたときに、その狭さが見えてくるということになります。「かれら」他者の歴史を考えることによって、歴史はもっともっと複雑で、もっともっと多様なものであるということがわかるでしょう。 こうした発見は、ただ教科書に載っていることをなぞっているだけでは、できません。「歴史とは何か」という問いがあって、はじめて可能になることです。(p183)
by syunpo
| 2014-07-11 20:26
| 歴史
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