●木村草太著『テレビが伝えない憲法の話』/PHP研究所/2014年5月発行
安直なタイトルで損をしているが、本書における「テレビが伝えない」点とはひとえに憲法学の楽しさだと著者はいう。したがってここでのテーマは「憲法について考え、議論するのは、とても楽しい」ということを伝えること。実際、この本は楽しいし為になる。 最高法規、外交宣言、歴史物語の象徴。これら日本国憲法の三つの顔を概観した後、立憲主義の考え方や憲法の三大原理、人権訴訟、9条・96条の問題などに関して憲法学のエッセンスを紹介していく。平易な語り口ながら中味は濃い。 三権分立は「もともと一つだったものを三つに分けようという発想ではなく、『立法権』という権力を創設して、『法律』で権力を統制しようという発想の原理」だという指摘には蒙を啓かれる思いがするし、国民主権の原理を有権者の多数決と同一視するような単純な認識にクギを指しているのも注目されよう。 国民主権とは、全ての国家権力を「有権者の多数決」で行使すべきだという原理ではなく、それぞれの決定すべき事柄の性質に応じて、「国民全体の利益」を実現するために最も適切な意思決定を採るべきだ、という原理なのである。(p84) 公権力を縛るものとしての憲法に明記されている義務規定をどう読むか、という点については権利保障との関連から記述される。 憲法上の義務規定は、どうしても権利を制限しなければならない場面で、その場面を厳密に限定して、絶対にこの範囲でしか義務付けないので、と大きく断りを入れて、細心の注意の上に、権利制限を受ける範囲を具体的に限定して、権利保障に例外を設ける、そういう規定である。 要するに、義務規定は、権利保障の例外を厳密に定義するために置かれるものであって、権利と義務というものが対等に並ぶわけではない。(p105) また9条に関しては国際法の枠組みや外交宣言としての側面を強調しているのが印象に残った。「憲法9条の文言だけを見て議論するのは、檻の中のシマウマを黒馬だ白馬だと騒ぐようなもので、意味のあるものとは言い難い」。 本書の議論には当然ながら賛否両論あるだろうが、「素朴な議論に飛びつかず、難しい問題を知恵を絞って考えることには価値がある」という著者の訴えには多くの読者が首肯できるのではないかと思う。
by syunpo
| 2014-09-16 20:48
| 憲法・司法
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