●原武史著『知の訓練 日本にとって政治とは何か』/新潮社/2014年7月発行
「政=まつりごと」には二つの意味が含まれる。人民を統治すること。文字どおりの政治。そして今一つは神をまつること。祭祀。本書は、日本の「まつりごと」について、その両面を考え合わせることで、より深い政治的思考を身につけることを目的とする。明治学院大学での講義録をベースにしたものである。 〈時間〉〈広場〉〈神社〉〈宗教〉〈都市〉〈地方〉〈女性〉という鍵概念と政治との関係を考察するという形式で、個々の項目がとりあえず一話完結的になっているので読みやすい。項目のなかには原武史が一冊の本にまとめたテーマも含まれていて、その意味では著者のこれまでの仕事のエッセンスが詰まった本ともいえよう。 まつりごとの二つの面について考察する本書の趣旨からして、天皇や皇室をめぐる言説が本書全体に及んでいることはいうまでもない。〈時間と政治〉では、昭和天皇さえも時間の支配から免れることがかなわなかったという指摘は興味深いし、〈広場と政治〉では皇居前広場の特異性を世界的な視点からあぶり出す。 鉄道にも詳しい著者の持ち味が出ているのが、東西の二都市について述べた〈都市と政治〉。皇居を中心として整備された帝都東京と、私鉄の営みが都市の開発に直接に結びついた民都大阪の比較対照は鮮やかな切れ味をみせる。 ただし紋切り型の反復にとどまっている箇所もなくはない。東京を論じるのに、皇居を「空虚な中心」と表現したロラン・バルトを引用する議論はいいかげん聞き飽きたし、〈地方と政治〉の項目で田中角栄を「土建屋的発想」の観点から言及するのもお決まりのパターン。むろんそれだけで本書の価値を貶めるつもりは毛頭ない。全体をとおして議題の取り上げ方、トピックスの掘り出し方などに「空間政治学」を提唱する原ならではの個性が感じられることは確かで、読んで損のない本だと思う。
by syunpo
| 2014-10-26 09:47
| 政治
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