●徳間書店出版局編『この国はどこで間違えたのか 沖縄と福島から見えた日本』/徳間書店/2012年11月発行
二〇一二年、沖縄が本土復帰して四〇年の節目を迎えた。それを機に沖縄タイムスは《「国策を問う」〜沖縄と福島の40年〜》と題して識者たちのインタビュー記事を連載した。掲載時期は民主党政権時代の二〇一一年一二月から一二年七月までの期間。本書はその記事に加筆・修正をほどこしたものである。登場するのは、内田樹、小熊英二、開沼博、佐藤栄佐久、佐野眞一、清水修二、広井良典、辺見庸。インタビュアーは論説委員の渡辺豪。 沖縄の基地問題や福島の原発事故をめぐって、主に議論されているのは対米従属や中央集権型政治の限界、それに付随したメディア批判など、毎度おなじみの論点である。主張内容もそれぞれの論者がこれまで著作などで述べてきたことを繰り返す場面が多いように見受けられ、率直にいって個人的には本書から新たに学ぶことはあまりなかった。 『「フクシマ」論』で論壇にデビューした開沼の基本認識にははっきり違和感をおぼえる。いわく「原子力ムラにせよ、安保ムラにせよ、非常に強固な『これをそう簡単に手放せない』という保守的な地盤があるという現実を見ないと、ことの本質が見えてこない」。しかし原発や軍事基地に生活基盤を託さねばならないような人間を生み出したのはそもそも中央政府の国策の「効果」であって、ことの「本質」でも何でもない。たとえ服従が「自発的」にみえるようなものであったとしても、だ。 その意味では「原発の災害は、第二原発で働いている4500人が失業するとか、交付金が減るとか、そういうレベルで論じるべき問題ではない」という清水のシンプルな発言の方に共感する。むろん失業者を無視していいという話ではなく、清水は炭鉱の閉山など過去の事例を参考にしつつ国が責任をもってフォローすべきことを主張している。 また識者の講釈以上に渡辺の具体的な指摘の方がおもしろかったりするのが本書の読みどころの一つといえようか。たとえば、鳩山首相が普天間移設先の見直しを防衛省に指示していた時期、当の防衛官僚は米側に対して「再編計画の見直しに柔軟性を見せるべきではない」とアドバイスしていたのだという。 発足時の民主党政権が目指した「国外、県外」移設を進めるどころか、逆に政権の足をひっぱる官僚の倒錯ぶりです。沖縄県民の声を切り捨てるどころか、首相の指示も無視して、米側にすり寄る態度は「安保ムラ」のメンバーの真髄である「米国への自発的服従」を地で行くような場面だったと思います。(p141) また、米軍基地に関する交付金と原発関連の交付金との相似性について。 07年成立の「米軍再編交付金」がまさに「核燃料サイクル交付金」と同じ仕組みです。米軍再編への賛成が遅れるほど受給総額が減り、国の方針に協力しなければ防衛相の裁量で支給対象から外されます。一方で、使い勝手がよくなって、ソフト事業や複数年度にまたがる事業にも活用できるように「進化」しました。米軍再編交付金に関しては、当時の守屋武昌防衛事務次官が電源3法交付金をモデルにつくったことを明言しています。(p198) 福島原発の問題と沖縄の基地問題は、むろん同列に論じられない点も多々あることは渡辺も再三念押ししている。が同時に構造的には類似している点が少なくないことも否定できない。本書は二つの地域が抱えた問題をとおして見えてくる日本の政治文化のあり方に再考を迫るものであることは間違いないだろう。
by syunpo
| 2015-02-24 20:17
| 政治
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