未来の他者と連帯する〜『憲法の条件』

●大澤真幸、木村草太著『憲法の条件 戦後70年から考える』/NHK出版/2015年1月発行

b0072887_2083436.jpg 気鋭の憲法学者・木村草太と社会学者・大澤真幸の組み合わせによる対談本。タイトルが示すとおり、憲法の解釈や歴史的検証よりも、憲法が機能するための社会的・政治的条件を考察することに力点が置かれている。

 例によって大澤が勉強家ぶりを発揮していて、発言の主要部分には引用が多い。ヤスパース、赤坂真理、カント、ルソー、サンデル、ロールズ、アガンベン、カフカ、橋爪大三郎……。というわけで本書で目新しい視点が打ち出されているわけではないのだが、多角的に憲法に接近していくという意味では有意義な本であるだろう。

 人は法をつくることができる。他方で、統治者といえども法に従わなければならない。この両立を目指すのが近代国家。しかしそれは容易ではない。つまり「法の支配」は民主的な国家が成立するためのきわめて重要な条件であるが、歴史的にみれば独特の社会的条件であり、それを確立・定着させることの難しさが前半部で確認される。この困難にいかに立ち向かうかが本書を貫くメインテーマということになる。

 日本国憲法を考える場合、その普遍主義的な面を重視・尊重する立場がある。木村によれば、それは歴史的な負い目を感じないでいられるという利点をもつが、議論が上滑りしやすく且つ冷たくなってしまうという欠点もある。そこで木村は「一般の人から見れば、憲法というのは国の物語の象徴としての役割のほうが重要なのではないか」と問いかける。

 それに対して大澤が持ち出すのは「未来の他者の願望を受け取ること」「弱さを通じての連帯」という理念。たとえば前者に関する注釈は次のようなものである。

 ……平和憲法をもつ日本人は、未来の他者がやるべきこと、彼らが生き延びるとするならばやるはずのことを、現在の他の人たちに先駆けてやろうとしていることにある。未来の他者たちは、平和に生き延びようとすれば、あるいは実際に生き延びられるとしたら、憲法九条的なものをもつことになるはずです。(大澤、p79)

 木村は「法というものが、未来の他者や弱者と連帯する足がかりになるのではないか」と受けるのだが、そのような議論のまとめ方はややトートロジーに陥っている感なきにしもあらずといえようか。
 本書では、このほかヘイトスピーチや差別・不平等の問題、集団的自衛権などアクチュアルな問題についても熱い議論がなされている。いささか茫漠とした読後感が拭えないにしても、それなりにスリリングな対論になっているのではないかと思う。
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by syunpo | 2015-03-03 20:20 | 憲法・司法 | Trackback | Comments(0)
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