●竹内洋著『教養主義の没落 変わりゆくエリート学生文化』/中央公論新社/2003年7月発行
教養主義の時代は終わった。多くの人がそのように感じている。では、それはいかにして人々を魅了したのか。そして何故、衰退していったのか。本書は教養主義の輝きとその後の没落過程を教育社会学者が考察したものである。 教養主義とは、何よりもまず「万巻の書物を前にして教養を詰め込む預金的な志向・態度」である。読書をつうじた人格形成や社会改良を目指すという意味での教養主義は大正時代に始まったとされている。その発祥地は旧制高校であり、帝大文学部において深められた。戦後はその性質を変えながら再興し、一九七〇年ころまでの大学キャンパスにおいて規範文化となった。だが、七〇年代以降、「新中間大衆社会」が到来し「凡俗に居直る」サラリーマン文化が蔓延するに及んで、それは没落する。 本書ではその盛衰を各種の統計や文献によって検証していく。その点では社会学的なアプローチを採っているのだが、随所に個人的な随想風の記述もみられ、新書としての読み味を工夫した書きぶりになっている。 教養主義に《世界》や《中央公論》などの総合雑誌が果たした役割やマルクス主義との共依存関係、都市対農村の構造に注目している点などなど、その分析はなかなかに興味深い。教養主義のエッセンスを知るには最適の一冊といえるだろう。 本書が刊行されたのは十年以上も前だが、現政権による実学志向の大学改革などをみていると、教養主義について考えを及ぼすことの意義は決して失われてはいないと思われる。その意味では本書の価値はけっして色褪せてはいない。
by syunpo
| 2015-03-30 21:57
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