●大江健三郎、古井由吉著『文学の淵を渡る』/新潮社/2015年4月発行
一九九〇年代初頭から二〇一五年まで二人が行なった対談が五篇収められている。 「群像」一九九三年一月号初出の〈明快にして難解な言葉〉では、表題どおり文学のもつ「明快な難解さ」が論じられている。おのずと二人の議論もまた「明快な難解さ」の両義性を帯びずにはいない。 〈百年の短篇小説を読む〉は創刊以来「新潮」に掲載された短篇の中から三十五篇を寸評していくという趣向。森鴎外《身上話》から始まって中上健次《重力の都》までを論じる。「百年間の近代文学の歴史は、これらの三十五篇の短篇を読んでみても把握できます」と大江が言うだけあって、私にはこれが一番楽しめた。 〈詩を読む、時を眺める〉は、古井の著作『詩への小路』をもとに、詩の翻訳と小説との関連を語りあうもの。〈言葉の宙に迷い、カオスを渡る〉では、大江の『晩年様式集』をもとに、作家の晩年性(レイトネス)についての議論が深められる。 〈文学の伝承〉では、ギリシャ語・ラテン語の学習や日本の古典などについて対話が交わされていて、今さらながら両者の勉強家ぶりが伝わってきた。古井が最近の日本の文化政策について「効率主義」をになっていることを指摘し「古い文献学的なことを調べる学者が、果たして大学で存在を保てるのか」危惧しているくだりは、現政権の反知性主義的な政策が力を増しているだけに切実にひびく。 全体をとおしてふたりの文学的知性のみならずヒューモアが良い按配に感じられ、味わい深い対談集になっている。
by syunpo
| 2015-06-14 11:25
| 文学(小説・批評)
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