●中沢新一著『日本文学の大地』/KADOKAWA/2015年2月発行
日本の「古典文学」が生産されてきた心的な空間。中沢新一はこれを「日本文学の大地」と呼ぶ。本書はその魅力を具体的な作品をとおして追体験しようとする試みにほかならない。 『源氏物語』を第一級の政治思想の本として位置づけるかと思えば、『万葉集』からは宇宙的な性質を帯びた不思議な力を感受する。『新古今和歌集』の「幽玄」の神秘主義を吟味したあとには、文学の唯物論として芭蕉の俳諧を味読していく。 『太平記』が文芸のパンクならば、井原西鶴は「換喩力の怪物」であり、『宇治拾遺物語』の面白さは「エネルギーの健全なる循環ということ」に見出すことができる。「純粋な欲望はついに法を超えてしまう」という事実を悲劇として描くことに成功したのが近松門左衛門で、金春禅竹は中世的思考の花として日本の大地に開花したのであった。 中沢の読みは自由奔放で、日本の古典が新たな魅力を放ちながら立ち上がってくるかのようである。本書は一九九〇年代中頃に書かれた文章がベースになっている。オウム真理教がらみの言動で世間から批判を浴び、表舞台からの退却を余儀なくされた時期、中沢はひっそりと日本文学の大地に腰をすえて鋭気を養っていたのである。 同種の本として四方田犬彦の『日本の書物への感謝』が想起されるが、四方田本は海外のテクストにも広く目配りした比較文化論的な色合いを打ち出していたのに対して、本書はあくまで日本文学の大地の奥深くにダイヴしようとする筆致が印象的だ。
by syunpo
| 2015-07-11 19:16
| 文学(小説・批評)
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