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自由と民主の危機の時代に考える〜『右傾化する日本政治』

●中野晃一著『右傾化する日本政治』/岩波書店/2015年7月発行

自由と民主の危機の時代に考える〜『右傾化する日本政治』_b0072887_21313014.jpg 現下に進行中の政治動向を「右傾化」とみるか「普通の国化」とみるか。立場によって見え方も使う言葉も違ってくるだろう。本書では前者の立場を鮮明にしたうえで、過去三十年のタイムスパンでそのプロセスを解き明かしていく。

 日本政治の右傾化に関して中野は三つの特徴を浮かび上がらせる。政治主導であって社会主導ではないこと。単線的ではなく限定的な揺り戻しを挟みながら時間をかけて進展したこと。旧来の右派がそのまま強大化したのではなく「新右派転換」と呼ぶべき質の変化がみられること。

 新右派連合とは新自由主義(経済的自由主義)と国家主義(政治的反自由主義)が結託したものである。一見相矛盾する両者ではあるが、理念的な親和性が高く、利害も一致し、同時に政治的な補完性をもっているという。

 現時点において勝利をおさめた新右派連合がこのまま暴走を続ければどうなるのか。右傾化の次なるステージとして「対米追随路線では抑えきれないところまで復古主義的な国家主義の情念が噴出するようになる」と中野は懸念する。

 では新右派連合に代わるオルタナティブはいかにして可能か。本書ではそのための基礎条件を三つあげている。選挙制度見直し。リベラル勢力が新自由主義と決別すること。旧来型の同一性に依拠した団結から相互の他者性を受け入れてなお連帯を求めあうかたちへの転換。以上の三つである。

 中野の整理のしかたは学者らしく理路整然としており一定の説得力を感じさせるものではあるだろう。ただし集団的自衛権の行使容認については、単純に右傾化の文脈で論じることが適切かどうかは疑問。というのもそれは憲法制定直後から唱えられた南原繁らの議論の系譜に連なるものであって安倍個人の右傾思想の産物でもない旨の見解が苅部直によって提起されているからだ。本書では民主党政権の安保政策の流れから言及しており、必ずしも安倍個人のイデオロギー傾向のみに帰着させるような議論はしていないものの、苅部説に直接応じるような記述がみられない(参考文献リストに苅部の著作は一つも挙げられていない)のはやはり物足りない感じがした。
by syunpo | 2015-09-01 21:36 | 政治 | Comments(0)
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