●矢部宏治著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/集英社インターナショナル/2014年10月発行
白井聡のいう「永続敗戦」の実態を米軍基地と原子力発電という二つの具体的事例にそくして概説した書物。本書はとりあえずそのように要約することができるだろう。さらに付け加えるなら、エティエンヌ・ド・ラ・ボエシの『自発的隷従論』を地で行くような史実を現代史研究の成果を踏まえながら記述した、ともいえようか。白井やボエシの提起した認識が思弁ではなく国際法や公文書、歴史的文献を精読する作業をベースにして跡づけられていくというわけである。 当然、憲法をめぐるこれまでの二項対立的な図式は完膚なきまでに無効を宣せられる。すなわち、憲法を押しつけられたといいつつ米国従属をより強化する方向でしか改憲を考えない勢力と九条に指一本ふれてはいけないと主張する護憲勢力との対立の構図そのものが解体されるのである。 オモテの憲法をどう変えても変えなくても、その上位にある安保法体系、密約法体系との関係を修正しないかぎり、日本の真の意味での主権回復はない。著者はそのようにいう。 重要なのは「安保村」の歴史と構造を知り、一九四五年の時点にもどったつもりで、もう一度周辺諸国との関係改善をやり直すこと。そして米軍基地と憲法九条二項、国連憲章「敵国条項」の問題を、ひとつの問題としてとらえ、同時に解決できるような状況をつくりだすこと。(p278〜279) 論旨も結論も明快である。しかし、いやそれゆえに、言うは易く行なうは難し、の古諺を思い出さずにはいられない。
by syunpo
| 2015-09-06 22:12
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