●添田孝史著『原発と大津波 警告を葬った人々』/岩波書店/2014年11月発行
東北地方太平洋沖地震が発生して津波が福島原発を襲った時、関係者の口から出てきたのは「想定外」という言葉だった。しかし、その後それは大きな偽りであることが明らかになった。津波による大災害を警告する声はいくつも上がってきていたのに、原発を推進してきた人々がそれを葬り去ったのである。 「新しいリスクを見つけ、それに対応出来るか検証し、必要ならば改善策を取る」という、一般の産業分野では当たり前のように繰り返されている手続きが、原発では実現することができなかった。それは何故なのか。本書のテーマはそれを検証することにある。 津波防災に関連する七つの省庁(国土庁・農林水産省構造改善局・農林水産省水産庁・運輸省・気象庁・建設省・消防庁)が、一九九八年に各自治体に通知した報告書と手引きがある。それらは既往最大に縛られていたそれまでの津波想定方法とは違う画期的な方法を提言している。手引きでは、最新の地震学の研究成果から想定される最大規模の津波も計算し、既往最大の津波と比較して「常に安全側の発想から対象津波を選定することが望ましい」と定めたのだ。 この七省庁手引きの方針は、電力会社にはたいへん都合の悪いものだった。当時の原発のほとんどが既往最大しか想定していなかったからである。 そこで電気事業連合会(電事連)はその骨抜きを企て、資源エネルギー庁をとおして圧力をかけた。その結果、七省庁の手引きが原発の防災計画に活かされることはなく、三・一一を迎えることになった。その具体的な意思決定過程は詳らかにはなっていないが、電力会社も規制官庁も大津波を予測しており、その危険性に注目していたことは紛れもない事実なのである。 こうした事実を中心に、本書では土木学会が電事連の完全な御用学会として機能していたこと、保安院や中央防災会議が電力会社を監督する務めを果たしていなかったことなどを具体的に明らかにしていく。 積極的に原発の推進に関与してきたセクターだけでなく、関係者の不作為もまた批判の対象となる。たとえば「外部の目が届かない、科学にふさわしくない非公開の場での検討の存在を知りながらタブーとして触れず、存続を許してきた」地震学者などである。さらには著者が属していたマスメディアの追及の甘さについても自省的な姿勢が示されている。 本書の記述には推測や不確実な箇所も少なくないが、それは著者の取材不足というよりも関係官庁や電力会社による情報開示の不徹底に由来すると考えるべきだろう。原発問題のみならずこれからの政治を考えていくうえで、多くの教訓と示唆を与えてくれる本といえる。
by syunpo
| 2015-11-07 20:06
| 政治
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