●加藤周一著『加藤周一最終講義』/かもがわ出版/2013年12月発行
標題が示すとおり加藤周一の「最終講義」をまとめた本。四つの講義記録からなる。 佛教大学での講義〈マルキシズム、仏教、朱子学とその日本化〉では、マルクス主義や仏教、朱子学の受容ぶりをとおして、日本の現世主義・個別主義・実際主義・唯物論が浮き彫りにする。とくに面白味のある講義ではないが、代表作『日本文学史序説』で提示した日本論を終生維持していたことがよくわかる。 加藤を囲む勉強会である白沙会の〈何人かの歴史上の人物について〉は中華料理店で行なわれたもので、全編にわたって質疑応答の形式をとっている。ピカソや富岡鉄斎、漱石研究のあれこれやメキシコ体験談など、いささかとりとめのない内容。 北京・清華大学での〈私の人生、文学の歩み〉は本書のなかにあっては比較的まとまった文章で、自身の来歴を語りつつ『日本文学史序説』の自己解説的な話が展開される。 どうしてばかげた戦争をしたのか、あるいは、一五年戦争をはじめてから無条件降伏まで続けるということは、いったいどういう文化がそれを可能にするのかということ。それが根本的な問題。私は生涯をあげてその点に答えようとした……(p114) そこで『日本文学史序説』では一つの回答を提出した。日本文化とは何かという問いへの答えはひとことで言えば「集団主義プラス超越的価値の不在」。集団主義は、どういう集団の成員の一人も超越的価値にコミットせず、集団の一致した多数意見があらゆる問題に対しての最後の答えになる、というものである。ゆえに集団の構造、枠組み、目的は動かすことができない。「日本社会のなかにおこるほとんどすべての現象は、いま言った根本的原理によって動かされていると思います」。 〈京都千年、または二分法の体系について〉と題した立命館大学における講義は、持続と変化をめぐって京都という場所に引きつけながら語ったもの。ヨーロッパから帰国したとき、自分自身の文化的アイデンティティを確かめる場所としては京都しかなかったという回想は、やや紋切型の域を出ないものの、加藤の日本文化論を理解するうえでは興味深い挿話といえるかもしれない。
by syunpo
| 2015-11-11 20:10
| 文化全般
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