●内田樹、白井聡著『日本戦後史論』/徳間書店/2015年2月発行
今では京都精華大学の同僚となった二人による対談集。白井聡の『永続敗戦論』をベースに日本の戦後史を分析的に論じている。といっても内田樹の発言は相変わらず飲み屋で披露する分には受けるかもというレベルの仮説的な話が多く、白井の方はもう少し生真面目な態度がうかがわれるものの、全体として大味な展開という印象は拭えない。 しかも二人の対話が必ずしもうまく噛み合っているとはいいがたい場面も散見される。たとえば白井はあくまで持論の「永続敗戦レジーム」で日本の政治状況を概括しようとするのに対して、内田は明治維新以来の「官軍/賊軍」のフレームを意識した発言を繰り返している。 また白井のキーワードの一つである「敗戦の否認」という概念に関しても、建国の物語には多かれ少なかれ都合の悪い史実の「否認」がみられ、みなで共感できる物語が捏造されると内田はいう。その認識に基いて、太平洋戦争は賊軍差別に象徴される「戊辰戦争の敗戦の否認」の帰結だった、というのである。 つまり「敗戦の否認」論を戦後だけでなく明治以降にも、さらには他の先進諸国にも見出す内田の史観はいわば白井の「永続敗戦レジーム」論を拡張するものであるといえる。そうした見解が、白井の現代史観をいっそう活性化させているのか、かえって薄味にしてしまったのか。その判断はいささか難しい。
by syunpo
| 2015-11-17 19:11
| 思想・哲学
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