●西田亮介著『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』/NHK出版/2013年9月発行
二〇一三年七月の参議院選挙から選挙運動にインターネットを利用できるようになった。いわゆるネット選挙の解禁である。本書ではインターネットを中心とした情報技術の進展と政治のよりよい関係を考察する。 公職選挙法の施行以来、テレビや電話など多くのメディアが普及したが、普及したからといって自由闊達にそれらのメディアを使えるようになったわけではない。メディアの利用に際しては経済力のある者が有利にならないよう、様々な規制がかけられてきた。ところがインターネットに関しては明確な根拠は明らかにされないまま規制が緩められたのである。著者が「理念なき解禁」という所以である。 そうした背景もあってか、参院選で実施されたネット選挙は国政に影響を与えるダイナミックな変化を生み出すことはなかった。ただしまったく意義がなかったわけではない。「ほぼ唯一の、一般有権者にとってのネット選挙の『成果』は、政治に対して新しい監視の機会を手に入れたことだ」と西田はいう。 政党や政治家のネットでの発言は、誰でも検索してその発言を確認することができる。ネットでの発言が標準的なものになれば、その傾向や、ネットでは発言していないということさえ調べることができる。過去の発言との比較も容易だ。「このような衆人監視状況は短期的には政治家の発言を萎縮させると思われるが、中長期では、むしろ発言を促進するものと考えられる」。 同時にネット選挙は「政治マーケティングの高度化」という新たな局面をもたらした。二〇〇〇年代前半から、政治と広告代理店、PR会社の関係性が密になっており、政治の側からのPRの技術も格段に向上した。 すなわち、ネット選挙は「政治の透明化」と「政治マーケティングの高度化」という対立的な側面を浮上させたといえる。 そこで西田は政治家の情報操作に振り回されるのではない、「理念型としての民主主義を改善する情報技術の活用法を考えることが重要である」ことを指摘する。 また間接民主主義の陥穽を情報技術によって補完しようという動き、たとえば「行政の情報化」「政党の情報化」についても西田は注目する。その実例として福井県鯖江市の「データシティ鯖江」の実践やヨーロッパにおける海賊党の活動などが紹介されている。 政治学的には新しいテーマを扱っているので全体的に事例紹介の域を出ない記述がかなりの割合を占めている印象は拭えないものの、新時代の民主主義を考えていくうえで重要な問題にスポットをあてた本であることは確かであろう。
by syunpo
| 2016-01-23 10:15
| 政治
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