人気ブログランキング | 話題のタグを見る

誰も笑わない恐怖、誰かが笑う喜び〜『火花』

●又吉直樹著『火花』/文藝春秋/2015年3月発行

誰も笑わない恐怖、誰かが笑う喜び〜『火花』_b0072887_19284544.jpg 売れない漫才師と彼が師と仰ぐ先輩芸人との関係を軸に、芸人世界の人間模様と葛藤を描く。「笑い」とは何か。芸人にとってもっとも大切なことは何か。そうした根源的な問いに主人公の徳永も先輩芸人の神谷さんも真剣にそれ故に時に滑稽なまでに向きあおうとするのだ。

 又吉の書きぶりは外連味なく、高校野球のようなひたむきさで二人の奮闘ぶりを描出していく。一途に笑いを追求していくことは、こんなにも清々しいことだったのだ。ただ、どういえばいいのか、一篇の文芸作品としては今ひとつ深味に欠けるような読後感を拭うこともできなかった。とくにラストがいただけない。神谷さんの所業に対して徳永が涙ながらに、いわゆるポリティカルコレクトネス的に批判する場面があまりにも「真っ当」すぎて、正直、私にはつまらなく思えた。
 とはいえ又吉の生真面目な筆致には捨てがたい魅力を感じないでもない。これからさらにどういう作品を作りあげていくのか、今後を楽しみにしよう。
by syunpo | 2016-01-27 19:30 | 文学(小説・批評) | Comments(0)
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

<< 話し合うこと、迷うこと〜『民主... 監視の武器か、世論誘導のツール... >>