●山崎雅弘著『戦前回帰 「大日本病」の再発』/学研マーケティング/2015年9月発行
現在の政治動向を「戦前回帰」とする見方は珍しくない。その時、批判の対象となる戦前・戦中のイデオロギーとは軍国主義や全体主義であったりするのがこれまでの常道であった。本書の特徴はそうした政治学的概念ではなく、国家神道による精神的統制という観点から分析する点にある。 ……昭和初期から一九四五年の敗戦に至るまでの日本国内で、軍人や政治家、国民の心を支配した価値判断基準は何だったのかと言えば、天皇を頂点とする国家体制を「世界に類を見ない神聖で崇高な国のあり方」と定義し、その未来永劫までの存続のみに価値を置き、あらゆる国民にその目的への奉仕と献身、犠牲を求め、その目的に貢献しない物事には一切の価値を置かないという「国家神道」の精神でした。(p105) 国家神道の精神こそが国家の道を誤らせたというのである。そのような宗教的装いの偏向した思想傾向にそまることによって、まるで熱病に浮かされたかのように「正常な判断力を失い、冷静で理性的な状況ならば絶対にしないようなことをできる」ような状態に陥った。山崎はそれを「大日本病」と命名し、今そのような熱病の再発が強く懸念されるという見立てが本書の基調をなしている。 熱病の再発を防ぐために、本書ではいくつかの提起がなされている。「際限のない『褒め言葉』に注意すること」「二者択一や『敵と味方』の二分法を拒絶すること」「謙虚な思考を心掛け、傲慢な思考に陥らないこと」などなど七つの提案である。とくに目新しいことが書かれているわけではないが、昨今の政治社会における病理と処方がコンパクトにまとめられているように思われる。
by syunpo
| 2016-02-06 13:15
| 政治
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