●政野淳子著『投票に行きたくなる国会の話』/筑摩書房/2016年6月発行
ちくまプリマー新書の一冊。著者は衆議院議員の政策秘書を経てフリージャーナリストとして活躍している人物で、基本的には若年層向けに政治への関心を高めることを目指した企画だと思われるのだが、さてその内容は……? 選挙権の年齢が十八歳からに引き下げられたことを受けて、日本の統治機構の初歩的な解説から始まるのはいいとして、その後は立法や税制改革、行政監視に市民が積極的に関与するための方策を教示するという構成になっている。詳細なノウハウ伝授をしている一方で、明快な成功事例の記述に乏しく、茫洋とした読後感だけが残った。 日本の政治システムを概説するくだりでは、平易な語り口で理念的な話を中心に法制度の推移などにも言及している。ところどころでやや踏み込んだ記述がみられるのが目を引く。たとえば評価のわかれる政党助成金制度についてその不公正さを指弾するなど入門書的な本にしては著者自身の政治観が色濃く出ている箇所もあり、そのあたりは異論があるかもしれない。 それ以上に違和感をおぼえたのは、どうも器と中身がフィットしていない、標題(&序章)と内容にズレがあるように思われることである。国政に関与する方法として「アドボカシー」や「ロビイング」などに紙幅が割かれているのだが、それらは政治活動の上級者向けの話ではないだろうか。「市民立法」のやり方なども妙に細かくレクチュアしているけれど、そのような実践的なアドバイスを必要としている人であれば、当然投票には欠かさず行っているに違いあるまい。 当面する課題は、選挙での投票率が低下傾向にあることを踏まえ、まずはいかにして一般有権者に投票所へ足を運んでもらうか、ということだろう。標題もそれを意識したものが付けられているのに、本書の内容は政治への入口に誘う書としてはいささか跳びすぎているのではないか。 しかも不思議なのは、立法過程や予算審議などではいかに官僚が仕切っているかが事細かに記述されていることだ。国民の代表たる議員が国民の立場にたって活躍している場面はほとんど出てこない。一事が万事、国政・司法にまつわるネガティブな話が基調になっていて、それが実態だと言えばそのとおりだろうが、それならそれで書き方をもっと工夫する必要があっただろう。本書を読んで「投票に行きたくなる」若者の姿を想像することは私にはむずかしい。
by syunpo
| 2016-11-30 20:35
| 政治
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