●菅野完著『日本会議の研究』/扶桑社/2016年5月発行
安倍政権の反動ぶりも、路上で巻き起こるヘイトの嵐も、『社会全体の右傾化』によってもたらされたものではなく、実は、ごくごく一握りの一部の人々が長年にわたって続けてきた「市民運動」の結実なのではないか?(p220) 本書の目的は以上の仮説を裏付けるところにある。関係者へのインタビューはもちろんのこと、関連資料を徹底的に読み込んだ分析は在来メディアが手をつけてこなかったもので、目的は充分に成就されているのではないか。 菅野によれば「ごくごく一握りの一部の人々」には主に三つの系統がある。一つは椛島有三率いる「日本青年協議会」および「日本会議」のライン。二つめは伊藤哲夫率いる「日本政策研究センター」のライン。三つめは「生長の家」のラインである。 私は神道系の人々が主導している運動なのかと漠然と思っていたけれど、そうではないのだ。日本会議には実に多くの宗教団体が集結しているが、実務を取り仕切っているのは生長の家の関係者なのだという。ただし現在の同教団は路線を転換していて政治運動からの撤退を公言している。日本会議に関わっているのは当初の教えをそのまま踏襲している人々である。 日本の「右傾化」の動向を宗教思想的な見地からみる場合、戦前からの流れで神道との結びつきを重視する見方が幅をきかせてきたことを考えれば、そのような情勢分析の紋切型を相対化する意味で本書の「研究」は極めて貴重ではないかと思う。 日本会議の運動は左翼の運動手法を真似たもので、それを息長く続けてきたことで成果を生み出してきた、と菅野はいう。計数管理能力に秀でいる点に言及している点も刮目に値するだろう。 小異を捨てて大同につくという原則に徹しきれない今日の野党共闘やリベラリストたちの迷走ぶりを見るにつけ、日本会議の地道な手法には学ぶべき点も少なくないのではないかと思った。
by syunpo
| 2016-12-19 18:48
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