ブックラバー宣言


コラムニスト・吉本俊二の書評ブログです。
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そしてジャズ者に人類の命運は託された!?〜『ビビビ・ビ・バップ』

●奥泉光著『ビビビ・ビ・バップ』/講談社/2016年6月発行

b0072887_18443980.jpg 物語の舞台は、まもなく二十二世紀を迎えんとする近未来の世界。語り手は夏目漱石よろしく一匹の猫である。ドルフィーという名のその猫は、ビッグバン以来宇宙で生起せる全事象がデータベース化された《超空間》に接続できるというワケで、神様視点を獲得しているのだ。

 肉体が滅んでも電脳内で生きつづけることが可能になった近未来の地球では、リアルと疑似現実環境の境界は曖昧模糊としている。空間の移動もまた現代とは様相を異にするスピードと利便性を得て容易になっている。その一方、貧富の格差は拡大し富者と貧者の棲み分けがすすんでいる。主人公はジャズ・ピアニストで音響設計士のフォギー。

 その世界にパンデミック(大感染)の危機が訪れようとしていた。フォギーを可愛がってくれているロボット製造販売の巨大企業の偉い人、山萩氏との交流をとおして、フォギーは思いがけずその危機の渦中に巻き込まれ中心的な役割を演じることを余儀なくされる。その場その場で臨機応変に対処することをよしとする〈ジャズ者魂〉を発揮しつつ、さて、フォギーは人類の危機を救うことができるのか?

 おもしろいのは、そこに古き良き時代(?)の懐かしい人々がアンドロイドとしてフォギーの眼前に登場することだ。異次元の空間を往還すると同時に、時代もまた錯綜する。エリック・ドルフィーとの共演やら、大山康晴と人間との対局やら、末廣亭での立川談志の高座やら、新宿ゴールデン街のバーで伊丹十三・寺山修司・野坂昭如らと同席するやら……。奥泉はみずからの余技や趣味にまつわる愛着と薀蓄を遺憾なく動員して物語を動かしていく。時おり混じる敬体のセンテンスもヒューモラスな雰囲気を醸し出すのに効果的だ。近未来SF小説という枠組を採りつつ、一九六〇〜七〇年代の日本文化をノスタルジックに批評するという趣向を同時に盛り込んでいるのが本作の特色の一つといえよう。

 そしてフォギーの冒険譚のなかからいくつもの哲学的問題があらためて浮かびあがってくる。自己とは何か。主体とは? 生命とは? 進化とは? 人間とは?……波乱万丈の物語のなかに盛り込まれた人類永遠の問題をめぐる思考の迷路へと真面目な読者ならば誘いこまれるのではないだろうか。
 さらに野暮を承知で付け加えるなら、最終盤に描かれるフォギーと山萩博士とのやりとりには、奥泉の音楽に対する愛、ひいては人間という存在に対する愛が吐露されているように感じられた。
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by syunpo | 2017-01-26 18:45 | 文学(小説・随筆) | Trackback | Comments(0)
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