●橋爪大三郎、大澤真幸著『げんきな日本論』/講談社/2016年10月発行
今や講談社新書の名物コンビとなった橋爪大三郎と大澤真幸の対談シリーズ第三弾。テーマは日本史である。時流に媚びたような書名にはあまり共感できないが、ここにいう「げんき」とは「自分なりのストーリーを見つけること」。具体的には「普遍的な概念をもって説明」することで「科学的な検証にたえる」ようなストーリーを再発見するという意味らしい。 社会学者二人による議論なのであくまで「仮説」の提起というレベルにとどまるものの、歴史の読み物としてそれなりにおもしろいことは確かである。 全体を古代・中世・近世に対応する〈はじまりの日本〉〈なかほどの日本〉〈たけなわの日本〉と三部構成にしたうえで、それぞれに六つの問題を配して二人が語りあっていくというスタイルをとる。 「なぜ日本では、大きな古墳が造られたのか」を考える一章では、「余剰労働を『非軍事的に消費する』こと自身が、目的だったのでは」と推察したり、平安時代における古典文学の成立によって「日本という文化的空間の、アイデンティティ(自己同一性)が揺るぎないものになった」といった橋爪の発言はなるほどおもしろい。 承久の乱の画期性を指摘するあたりの議論も勉強になったし、戦国大名は統治権が伝統に基づかないという橋爪の指摘を受けて「日本史上初めて出現した事実上の政府」と大澤が受けるやりとりも異論はありそうだが、興味深く読んだ。 安政の不平等条約について「条約の内容は不平等かもしれないけれども、条約という形式は、両者の対等性を前提にしている」という認識にもなるほどと思う。二人の認識によればこの条約のおかげで日本の独立が保障され、ヨーロッパ列強による植民地化を免れたということになる。 日本史学の専門家であればもっと精緻な議論が求められるだろうが、専門外の気楽さから自由闊達に仮説を披瀝している点に良くも悪くも本書の特質があるといえるだろう。
by syunpo
| 2017-02-24 20:01
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