●高見勝利著『憲法改正とは何だろうか』/岩波書店/2017年2月発行
日本の国会は衆参両院で改憲派の議員が三分の二以上を超え、いつでも憲法改正案を国民に発議し、国民投票に持ち込むことができる状態になった。本書は憲法を改正するということの法哲学的な意味を考え、現憲法の改正規定の成立過程をたどり、改正手続法の問題点を洗い出し、そのうえで安倍首相の憲法観の危うさを論じるものである。 前半、憲法を改正するという営みがもつ法哲学的な意味をジョン・バージェスやハロルド・ラスキやらを参照しながら考察するくだりは私にはたいへん興味深いものだった。「改憲とは最高の権力作用である」という言葉は心に刻んでおく命題であるだろう。 憲法改正による体制転換は正当かという問題については昔から種々の議論があるが、高見は芦部信喜の説を引いて次のように述べている。 もとより、国民がそのオリジナルな制憲権を行使して憲法を創設する場合であっても、それが「立憲主義憲法」と評しうる憲法であるためには、「人間価値の尊厳という一つの中核的・普遍的な法原則」に立脚したものでなければならない。そして、この憲法をして憲法たらしめる「根本規範」ともいえる「基本価値」が、憲法上の権力である改正権をも拘束する。(p34) そのような理路を示したうえで「憲法の永続的性質ないし安定化作用の観点からすれば、憲法改正には限界があるとする」見解が「基本的に支持されるべきである」というのである。 現憲法の改正規定の成立過程をたどるくだりは、かなり詳細な記述になっていて一般読者には専門的にすぎるかもしれない。とはいえ、国民投票法が長いあいだ整備されてこなかった背景についての分析は明快である。 「政府は、一貫して、憲法改正案とワンセット論で国民投票法の整備を考えてきた」と述べ、「したがって、憲法第九六条の手続の未整備は、憲法の明文改正を意図的に回避し、その解釈・運用で賄ってきた自民党歴代政権のしからしめるところである」と指摘しているのには納得させられた。 安倍首相の憲法観にはむろん批判的だ。欧米首脳の前では憲法的価値の共有を力説しながら、国内向けには日本精神を基に憲法一新を説く姿勢を「二枚舌」と喝破するくだりはとりわけ舌鋒鋭い。 全体的にややかったるい読み味といえば失礼かもしれないが、憲法改正を考えるうえでたいへん勉強になる本であることは間違いない。
by syunpo
| 2017-04-20 19:50
| 憲法・司法
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