ブックラバー宣言


コラムニスト・吉本俊二の書評ブログです。
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新たなる立憲主義へ〜『憲法とは何か』

●長谷部恭男著『憲法とは何か』/岩波書店/2006年4月発行

b0072887_16154437.jpg 本書は、昨今熱い注目を集めている憲法学者による憲法の入門書である。ちくま新書から刊行されている『憲法と平和を問いなおす』の続編・応用編として読むことができよう。専門家による憲法論として、意表をついた論考が繰り広げられ、そのうえで現実的な問題提起もなされている。最近刊行された憲法論のなかでは面白い部類に入る本だろう。

 本書の特色の一つは「立憲主義」という概念に新たな視座が与えられている点である。本書にいう「立憲主義」の要は、「多様な考え方を抱く人々の公平な共存をはかるために、生活領域を公と私の二つに区分しようとする」ものである。したがって、「それは人々に無理を強いる枠組みである」。
 そうした立場から、今日、議論されることの多くなった改憲問題や、議院内閣制の特色が論及される。また、これからの権力分立はいかにあるべきか、憲法改正の手続きは何故に多数決の要件を厳しく定めているのか、といった基本的な問題についても手際よく論述されている。

 ただし、面白い分、議論の厳密さには若干の疑問符が付く。ここで展開されている理屈は、少なくとも素人には理解しがたい点が少なくない。たとえば、九条をめぐって展開されている「準則」と「原理」に関する記述もその一つだ。

 自衛のための実力の保持を全面的に禁止する主張は、特定の価値観・世界観で公共空間を占拠しようとするものであり、日本国憲法を支えているはずの立憲主義と両立しない。したがって、立憲主義と両立するように日本国憲法を理解しようとすれば、九条は、この問題について、特定の答えを一義的に与えようとする「準則(rule)」としてではなく、特定の方向に答えを方向づけようとする「原理(principle)」にとどまるものとして受け取る必要がある。(p142)

 これは、いかにもわかりにくい理屈である。九条の文言(絶対平和主義)が「特定の価値観・世界観」だというなら、基本的人権や学問の自由なども「特定の価値観・世界観」に支えられている。ただ後者の場合には九条の文言よりも信奉者が圧倒的に多い、というだけの話である。この世のあらゆる権利や自由の主張もまた「特定の価値観」に基づくものであり、それを信奉する者の多寡によって、普遍性を帯びたり特殊な色合いを帯びるにすぎない。

 長谷部の「第九条原理論」は、最終的には九条を改正することに意味はない、という結論に導かれる。私自身も、九条を保持すべきという立場だが、長谷部のいうような理屈をシャバに持ち出しても、所詮は専門家の詭弁と見なされて、改憲論者に対抗するのは難しいのではないかと思う。
「法律なんて建前なんだから現実とずれているのは当たり前です。しかし、憲法九条という建前があるおかげで、とりあえず戦後60年間、日本が戦争に深く加担せずにこられたことは事実でしょう。だから、二重基準と言われたって平然とやり過ごしていけばいいじゃないか」という浅田彰のぶっちゃけた言い分の方がはるかに使えそうだなぁ。
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by syunpo | 2006-11-16 18:49 | 憲法・司法 | Trackback | Comments(0)
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