●手嶋龍一、佐藤優著『インテリジェンス 武器なき戦争』/幻冬舎/2006年11月発行
元NHKワシントン支局長と起訴休職外務事務官との対論集。 佐藤は、前回紹介した対談では相手に合わせてかなり理念的な話をしていたのだが、本書では、うってかわってインテリジェンス・オフィサーとしての経験に基づき、かなり生々しいエピソードを披瀝している。対する手嶋も、NHK出身の外交ジャーナリストとして、国際的な体験談には事欠かない。この種の対談の常として、随所に双方の手柄話の類いがちりばめられていて鼻白む箇所が少なくないものの、激動する国際政治のアクターとウォッチャーの立場から繰り出される具体的な挿話は、読み物としてはそれなりに面白い。 本書のタイトルにも採られているキーワード「インテリジェンス」とは、佐藤の定義によれば、複数の意味を含有する。「諜報=ポジティブ・インテリジェンス」「防諜=カウンター・インテリジェンス」「宣伝」「謀略=政策広報」の四つである。 二人の対話で結論的に強調されるのは、こうしたインテリジェンスの担い手の育成、さらには専門機関の設置ということである。あからさまな武力による戦争が困難になっている時代、国家の存亡を決するのは何よりもインテリジェンスの戦いだ、というわけである。 その中で、佐藤は「秘密情報の九八%は公開情報を再整理することによって得られる」というセオリーを紹介しつつ、「学術的な基礎体力」の必要性を説いているのが興味深い。また「インテリジェンスの仕事をやめても食べていけるような専門技術」を身につける重要性も指摘している。「別の職業で生きていける道が担保されていれば」組織内のつまらないサバイバル競争による組織の腐敗や自身の被害を最小限にとどめることができる、という。彼自身が生臭い修羅場を経た後だけに、何やら説得力がこもる話だ。 外交全般に対する二人の認識や展望については、「中国に対する腰抜け外交」だとか「左派のアラブ好き」などといった言葉遣いに象徴されるように、些か陳腐な現実的議論に終始し、得るものはあまりなかった。
by syunpo
| 2006-12-16 19:26
| 政治
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