●高野孟著『滅びゆくアメリカ帝国』/にんげん出版/2006年9月発行
本書は、著者が主宰するニュースレター「インサイダー」に発表した文章の中から、主に九・一一同時テロ事件以降の米国の対外政策について論述した記事を抜粋して一冊にまとめたものである。したがって、アフガニスタンやイラクでの泥沼化を知った現時点から結果論として執筆したものでなく、同時進行的に書いてきたものであるという点が興味深い。 書物としてはやや単調で、あまりに「正論」すぎて面白味に欠けるきらいはあるが、思えば、こういう衒いのない「正論」を見聞する機会は昨今ずいぶん減ったきたことも事実である。その点からみると、本書の分析やコメンタリーは極めて冷静なものであり賞賛に値しよう。 今、世界は、腕力の強い者(=米国)が自分勝手な理屈をこね回して横暴に振る舞う、という身も蓋もない現実を晒している。そうした現実に居直って、日本は米国についていくしかないのさ、と決め込む論者も一方では重宝されている。 しかし、あくまで筋をとおして、米国のやり方を厳しく問い、日本の外交の無能ぶりを批判する声も当然ながら絶対に必要なのだ。 「敵とみなす五〇人を殺害することで新たな五〇〇人を抵抗運動に追いやっている」というブラヒミ国連イラク担当顧問の言葉を引きながら、米国の単独行動主義を諌める高野のこの数年間の基本姿勢には、まったくブレがない。 これからは、反米か親米かの対立に意味はない、米国の衰退が客観的な現実となりつつある今では、「ポスト・アメリカニズム」(離米主義)という概念を立てる必要がある、というエマニュエル・トッドの認識を高野孟もまた共有している。
by syunpo
| 2006-12-27 19:36
| 政治
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