●山口二郎編『「強者の政治」に対抗する!』/岩波書店/2006年12月発行
本書は、政治学者の山口二郎が雑誌『世界』で行なった連載対談をまとめたものである。小泉政権五年間の政治を「強者の政治」として批判的に総括するもので、論点がわかりやすく整理されている。 対談相手は、鈴木宗男、加藤紘一、平岡秀夫、亀井静香、辻元清美、片山善博、高樹のぶ子、目取真俊。政権中枢からはみ出した政治家、社民勢力の一翼を担う野党議員、自治体のリーダー、さらには小泉政治に批判的な眼差しを向ける文学者たちである。 小泉政権の下で自民党を追いやられた鈴木宗男、亀井静香の話は、いささか微妙な色合いを帯びる。かつて自民党の中枢にいて利益誘導型の古い政治に辣腕を振るった二人であってみれば、単純に自民党政権の批判は出来ないはずだが、それでも自省をこめつつ語られる小泉批判の弁は、それなりに「正論」といえる。 先の衆議院選挙で、新党大地を立ち上げ北海道の自民退潮を実現した鈴木宗男は、小泉の対米重視に対して、アジア・ロシア重視の路線を打ち出し、都市住民に受けやすい市場原理万能路線に対して、地方の活性化を訴える。 亀井静香も、小泉政権の行なった財政健全化とは、地方への交付税を削減するなどの「地方切り捨て」にすぎない、と批判する。 加藤紘一も同じような観点から「コミュニティを壊す競争は許さない、という公理を持ってもいいのではないか」と提言している。 地方の活性化に関しては、やはり鳥取県知事の片山善博の話が説得力に富む。 「補助金行政」がいかに、地方の自立を妨げてきたか。合併特例債がいかに、不合理なものか。煎じ詰めれば、小泉構造改革とは、地方分権の名のもとに地方に責任を押しつけるだけの施策だったことが厳しく指摘されるのだ。 一方で、鳥取県が市町村に出す県単独の補助金を一括にすることで各自治体に裁量の幅を広げたことを述べて、補助金行政の効率化への道筋を具体的に示している。 民主党・リベラルの会に属する平岡秀夫の話は、前原代表が前のめりになって独自の外交路線を主張し、党が混乱していた時期ということもあって、真摯な語り口ながら、対小泉政権という点では今一つ切れ味を欠く内容だ。 辻元清美は、本書に登場する政治家としては最も小泉路線とは遠い所に位置する人物だが、野党政治家として、いかに政権に影響を及ぼすかといった戦略的なエピソードにむしろ面白味を感じた。 国民に負担を押しつける小泉首相が、何故、国民から支持を受け続けたのか。小泉に対する正当な批判の言葉が何故通用しなかったのか。ーーその問いは政治学者の能力を超える、として山口二郎は文学者を召喚する。 だが、九州大学アジア総合政策センター特任教授としても活躍中の高樹のぶ子の政治分析は、どうもピント外れのような気がした。小泉人気の要因の一つを「お利口な日本人が一億層評論家的に、日本全体のためにはしかたがない、と思った結果」と言うのだが、純ちゃんグッズに群がった多くの日本人の何処に「評論家的」な匂いを嗅ぎ取ったのか、私にはさっぱりわからなかった。 対して、沖縄在住の目取真俊の言説は、安保条約と憲法九条を併存させてきた戦後日本の矛盾を突いて切実だが、それは小泉批判というよりもむしろ「護憲派」への問題提起ともいえる厳しい言葉である。 山口二郎の総括的な文章は、この五年間の小泉人気に戸惑いつつも、その強権的な政治による疲弊を鋭く指摘しながら、「人間としての当然の権利さえ主張できない人々が作り出され、社会から排除され始めている」現実に向き合う姿勢を鮮明にして、好感のもてるものだ。 本書全体を通じて、とくに目新しい視座が提供されているわけではないものの、小泉ー安倍と受け継がれた自公政権に対する対抗軸をコンパクトに提示した書物といえるだろう。
by syunpo
| 2007-02-04 21:41
| 政治
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