ブックラバー宣言


コラムニスト・吉本俊二の書評ブログです。
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言葉のちからを問う〜『ニッポンの小説』

●高橋源一郎著『ニッポンの小説 百年の孤独』/文藝春秋/2007年1月発行

b0072887_1852135.jpg これは、「ニッポン近代文学」を語り、散文について論じ、言語について思索し、人間という不確かな存在について考察した書物である。問題意識としては、柄谷行人の『近代文学の終り』と共通するものがあるかもしれない。近代国家の成立と近代小説の成立が不可分であることを論じたベネディクト・アンダーソンをベースにしている点だ。
 ただ、高橋が柄谷と決定的に違うのは、彼は現役の「小説家」として当然ながら、文学の「存在価値」に見切りをつけていないところにある。

 ニッポンの近代文学は、「死」や「死者」について描こうとしてきた。あるいは「死者の代弁」をしようとしてきた。それこそが、ニッポンの小説にとって最大のテーマであるかのごとくに。つまり、死者の存在こそが文学者の「善性」を証明してくれるかのように小説を書いてきた。それらの試みは、必ずしも成功したとはいえないが、ネーション(国民)が、みずからの「善性」を確かめるために「死者」を必要としたこととパラレルに行なわれてきた、という事実は重要である。

 だが、今や「国民国家」は、初期の「信」を失い、後期ナショナリズムの時代に入っている。そこでは、あらたな「善性」の証しとなるものが強く求められている。
 そこで、高橋は態度を明らかにする。これからも小説(文学)が「ネーション」と運命をともにすべきである、とぼくには、いうことができない、と。

 これから文学は何を語るべきなのだろうか。小説に未来はあるのだろうか。
 高橋は、古井由吉の『野川』や猫田道子の『うわさのベーコン』を引用しながら、行きつ戻りつ、その可能性について言及する。同時にニッポンの小説がこれまで失敗してきた点、回避してきた問題を厳しく問うていくことも怠らない。
 明快な「処方箋」が安易に記されることは、もちろんない。

 高橋が立っている地点は、さながら9・11同時テロによって破壊されたビルの瓦礫の中のようである。
 彼はそこで、「ニッポンの近代小説」の「集落」のような在り方を振り返り、現在直面している「危機」について冷静に論述する。そして、人間を人間たらしめている「言語」というものの存在に震えつつ、最終的には、ある「場所」に留まりつづけることを表明するのだ。

 およそ、言葉というもののふるまいの一切に、真剣に聞き入ることのできる場所、言葉というものがなにをしようとしているのか、言葉というものが、にんげんになにをさせようとしているのかを見つめることのできる場所、つまり、小説という場所のことです。(p446)

 本書は「小説家は、作品でこそ〈文学〉の価値を実証すべきではないのか」というつまらない揶揄を吹き飛ばす、真摯にしてスリリングな文学論であり言語論である。
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by syunpo | 2007-02-14 19:00 | 文学(小説・随筆) | Trackback(1) | Comments(2)
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Commented by yumemi-m at 2007-02-14 23:24
syunpoさんこんにちは。ブログにTBとコメントを下さり、ありがとうございます。高橋さんのこの本はとても刺激的な一冊でした。作家の方が語る小説論はどこか難解になったり、実作の視点にだけ重心が置かれたりすることもあるようですが、この本での高橋さんの安易に結論を導き出そうとしないスタンスの潔さには非常に共感できました。今後高橋さんが小説でどのようなものを見せてくださるのか、それも楽しみなので今後も注目していきたいと思います。
Commented by syunpo at 2007-02-15 10:51
yumemi-mさま、
私は、最近あまり「小説」を読まないくせに、この種の「文学論」には関心をもつおかしな読者です(苦笑)。高橋源一郎の小説も、あまり楽しんだ記憶はないのですが、本書はとても興味深く読みました。
>安易に結論を導き出そうとしないスタンスの潔さ
……私も同じことを感じました。小説も読まなくては(笑)。
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