●武藤博己著『入札改革 談合社会を変える』/岩波書店/2003年12月発行
入札談合は、何故なくならないのか。それは相互扶助を美徳とする日本の文化であり、たとえ世間から非難を浴びようとも、今後も廃絶することはできない……そんな声も相変わらず根強いのだが、本書は、談合が広く行なわれてきた政治的・社会的背景を分析し、それを踏まえて、あるべき入札制度の提言を行なっているものである。著者の武藤博己は法政大学教授で、行政学・地方自治・政策研究を専門とする学者だ。 入札談合が繰り返し行なわれてきたのは、露見して罰せられるリスクを考慮しても、なおそこに「経済合理性」が存在するからにほかならない。それは、業者・行政官・政治家の「鉄のトライアングル」の構造を見る必要がある。この三者間のベクトルには、それぞれ談合することの旨味が存するわけである。 本書における、その検証・分析については、すでに多くの論者が指摘してきたことでもあり、とくに新味はないように思った。 本書の真価は、談合根絶に向けて提案された「政策入札」という考え方にある。現在、一般的に広く行なわれている一般競争入札では、価格という単一の基準で落札者が決定される。「本命」業者が決まれば、あとは価格を打ち合わせるだけで話が済んでしまう、それが談合など様々な悪の温床になっている。 そこで、武藤は価格以外の指標を導入する総合評価型入札への積極的な転換を推奨する。価格以外の要素として、事業の安全性やサービスの品質などが挙げられる。 武藤は、この総合評価型入札の枠組みを利用して、入札制度そのものが社会的価値を追求する政策手段として機能することを企図する。行政が政策を通じて追求すべき政策目的を入札にも判断基準として盛り込むこと。これが「政策入札」という考え方である。 本書では、入札に盛り込むべき社会的価値として、「環境への配慮」「福祉(障害者雇用等)」「男女共同参画」「公正労働基準」の四点が挙げられている。 こうした価値を、業者の選定基準として如何に客観的な指標として盛り込むかは、今後の議論の詰めを待つ必要があるにしても、政策実現の場として入札制度を考える、という視点はなかなか興味深い。 本書が刊行されたのちにも、課徴金を増額し談合の早期通報業者に対しては課徴金を減免することを盛り込んだ改正独禁法が施行されるなど、談合廃絶に向けての取り組みは進められているものの、談合発覚の報道は相変わらず後を絶たない。 談合とは切っても切れない関係にある公務員の天下りを規制する「天下り斡旋全廃案」も、推進役の渡辺喜美担当大臣は、孤立無援の状態に陥っている。 談合社会を変えていくことの困難は、多くの国民が感じていることであろうが、その問題を考察するうえで、本書が一つのあるべき方向を指し示していることは間違いない。
by syunpo
| 2007-03-12 19:48
| 政治
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