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おもかげとうつろい〜『日本という方法』

●松岡正剛著『日本という方法』/日本放送出版協会/2006年9月発行

おもかげとうつろい〜『日本という方法』_b0072887_20501094.jpg 日本の歴史や文化を「編集」というコンセプトで論じているユニークな日本論である。ここに論じられる日本とは「主題の国」というより「方法の国」としての社会である。「日本という方法」のキーワードは、「おもかげ」と「うつろい」である。
 「おもかげ」とは、「イメージとも印象とも記憶像」ともいえるものだが、「おも」は、「面」や「主」「母」と綴られ、そこから「面白い」「おもふ」などの言葉が派生した可能性をもつ興味深い言葉として捉えられる。
 「うつろい」とは、一義的には「移ろい」であり、移行・変化・変転・転移などを意味する。さらに「うつ」には、「空」「虚」「洞」などの意味が含まれる。

 「おもかげ」と「うつろい」は、日本文化の多くの場面……能、連歌、俳諧、水墨山水、茶の湯、近代工芸、神仏習合思想、江戸期の儒学・国学、明治大正の哲学、童謡……などにあらわれている、と著者はいう。
 一神教の国ではなく八百万の神の国。一義的ではなく多義的な文化をもつ国。本書をとおして、そのようなプロフィールをもつ豊穰の国として日本の姿が浮かびあがってくる。

 真名(漢字)から仮名を生み出した日本的編集の神髄を語り、神祇信仰と仏教とが合体して共存する神仏習合の興味深いメカニズムを解きほぐす。「おもかげ」を求めた「うつろい」の文芸としての連歌の魅力を論じ、からごころを斥けて「おもかげ」の国の正体に迫った本居宣長の思索を称揚する。日本建築の特長である「てりむくり」のダイナミズムについて言及するかと思えば、西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」に矛盾と葛藤の編集力を見出そうとする。

 松岡は縦横無尽に日本の文化を語り、日本人の為してきたダイナミックな編集のありさまを跡づける。昭和以降の「日本の失敗」「失われた面影を求めて」の記述に、前半ほどの滋味が感じられないように思えたが、全編をとおして松岡の博識と柔軟な思考力が横溢していて実に面白い本である。
by syunpo | 2007-04-08 20:56 | 思想・哲学 | Comments(2)
Commented by tsukinoha at 2007-04-09 05:46
ご無沙汰しております。
これまでの軌跡を辿りつつ再構成された内容に、改めてすごい!と思いました。
松岡氏の世界にぐんぐん引き込まれました。
Commented by syunpo at 2007-04-09 09:52
tsukinohaさま、
こちらこそ、ご無沙汰いたしております。恥ずかしながら、松岡氏の本を手にとったのは本書がが初めてで、他の本も読んでみたくなりました。それから、ここに紹介されている人たちの本も魅力的に言及されていますので、気のきいた「ブックガイド」という気もしました。
このブログは、今やほとんど自分のための覚書のような調子で書いているのですが(苦笑)、コメントをいただき、ありがとうございます。
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