●佐々木信夫著『自治体をどう変えるか』/筑摩書房/2006年10月発行
著者は東京都庁勤務を経て、中央大学教授として行政学、地方自治論を講じる学者。本書は、これからの日本が抱える地方自治の課題や展望について平明に説いたものである。 これまで都道府県や市町村は「地方政府」ではなく「地方公共団体」と呼ばれてきた。それは地方政府と呼ばれるにふさわしい機能が欠落していたからである。地域の政治機能(政治体)と事務機能(事業体)はあったが、自ら政策を創出する政策機能(政策体)はなかった。 しかし、一連の地方分権化政策によって、地方政府との位置付けがなされた。今後、地方自治体は、いかに政策機能を活性化していくかが問われることになる。 ただし、本書全体の論調はいかにも教科書的で生ぬるい。 夕張市の破綻や各地で表面化している裏金問題などの例を引くまでもなく、地方行政の失敗や腐敗がこれだけ顕在化している現在、政策機能の健全な活性化を企図していく前提として、これまでの失敗・腐敗の要因分析は欠かせないはずである。 ところが、本書では地方分権を促すための税源移譲や道州制の導入など、全般的にあらかじめ想定される地方行政モデルの概説に力点がおかれ、現実に顕在化してきている問題への切り込みが今一つ不足しているように感じられた。 「公共ビジネスマン」「高度専門社会を生き抜くための複合的な能力」「包丁一本さらしに巻いての板前感覚」など地方公務員に関するスローガンやお題目は随所に出てくるものの、その実現のための具体論にも乏しい。能力主義の給与システムを提唱している箇所なども、実際に誰がいかなる基準で能力を評価するのか、肝心な部分での記述に説得力を欠く。 「既存のモノサシの延長といった穏健な政策転換では住民が納得しないかもしれない」(p98)、「無際限に行政責任を問う風潮」(p110)いう悠長な物言いに象徴されるように、全般的に危機感の乏しい無機的な記述が目立つ。 「平成の大合併」の評価については、まったく支離滅裂である。「単に合併し市町村の規模を大きくすれば、課題の多くが解決するかといえばそうではない」と言ったかと思えば、「合併は、スケールメリットの働くよう団体自治の規模を拡大すると同時に、きめ細かな行政は旧自治体が担えるよう住民自治を強化していく方法」と論じている。 結局のところ、合併の功罪を厳密に分析もしないままに「合併はピンチではなく、新たな地域共同体を形成するチャンスだと捉えたい」(p213)と精神論に回収してしまい、「今後も更なる合併を必要とする地域はある。そこで、第二次の合併推進が求められよう」と述べているのだ。 また、前述したような役所の裏金体質、時に首長が中心的役割を果している談合の問題、無責任体制の象徴ともいわれる第三セクター方式の評価、中央からの天下りなど、地方自治を考えるうえで避けてとおれないこれらの問題については、何故かまったくノータッチである。 これほどタイムリーなテーマを扱いながら、これほど急所を外した書物も珍しい。
by syunpo
| 2007-05-07 20:14
| 政治
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