●鈴木宗男、佐藤優著『反省 私たちは何故失敗したのか?』/アスコム/2007年6月発行
「反省」のアイロニカルなタイトルが効いている。 本書は「国策捜査」によって檻につながれた政治家と元外交官の対談をまとめたものである。対ロ外交で手腕を発揮し、外務省全体に睨みをきかせた政治家・鈴木宗男と、その腹心ともいえる外交官・佐藤優。鈴木は自民党離党後、新党「大地」を立ち上げ、国政に帰り咲き、佐藤は今や論壇の寵児としてあらゆるメディアから引っ張りだこである。 みずからの振る舞いを「反省」するという姿勢をとりながら、外務省や検察、メディアへの辛辣な批判が繰り出される様は痛快でもあるが、同時にその惨憺たる状況に寒気をも感じてしまう読者は少なくないことだろう。 二人の体験談は、わが国の外交や行政司法がいかに恣意的にまた自己保身的に動いているかを明快にあぶりだす。 子宮ガンを患っていた鈴木宗男の女性秘書に対して、病院にまでおしかけて取調べを行ない満足な放射線治療すらもできない状況に追い込んで寿命を縮めてしまった検察の行状には背筋が凍る思いがするし、法廷で嘘八百を並べて同僚を有罪へと導いていった外務官僚たちの言動には、官僚組織の腐敗臭がただよってくるようだ。 生々しい事件の当事者の弁であるから、すべてを額面どおりに受け取るわけにもいかないだろうが、すでに長期間にわたる拘留を経て、社会的制裁を充分すぎるほどに受けた二人であってみれば、いまさら大きな虚偽を弄さねばならぬ理由も見当たらない。 ここでは実名入りで、外務官僚たちの私的な趣味も含めてかなり込み入った事実が開陳されていて、もし虚偽ならば甚だしい名誉毀損になると思われる記述も散見されるが、異議申し立てが行なわれたという話もきかないから、やはり「真実」が述べられているのだろう。 佐藤優の「国策捜査」に関する外務省や裁判のインチキぶりは、すでに『国家の罠』などにおいても詳述されていたので、本書で新たな事実を発見することは少ないが、メディアと外務省の癒着ぶりなどは想像はしていたもののここまで進んでいるのか、とあらためて嘆息せずにはおれない。 モスクワにやってきた記者たちに大使館の白紙の領収証を渡して小遣い稼ぎをやらせてあげたり、外務省が記者たちに匿名で政局レポートを書かせてそれなりの原稿料を支払い、懐柔していた事実なども明らかにされていて、これでは、メディアが外務省の根本的な不正を暴くことなど出来るはずもなかろうと思い知らされる。 物足りない部分もないではない。 たとえば、外務省を再建するための包括的なビジョンは二人が認めているように最後まで説得的に提示されることはない。外務官僚の不正蓄財についても抜本的な組織改革の提言はなされず、海外から帰国した外交官の徹底した税務調査の必要性を佐藤が力説しているくだりなどは、昨今の検察が主張している「事前規制から事後制裁へ」という路線転換と軌を一にするもので、なんとも皮肉な主張になってしまっている。 また、官僚のモラル低下を嘆くに、鈴木が戦前の官吏服務規律を引き合いに出してくるあたりのセンスにも共鳴しかねる。 とはいえ、本書において赤裸々に語られている事実は、今日の外交ひいては政治・社会全般を考えるうえで、多くの示唆に満ちていることは否定できない。人々は、極限状態におちいれば、多かれ少なかれ自己保身的に振る舞うものだろう。本書において外務官僚や政治家に差し向けられる言辞は、誰にとっても吟味に値するはずのものである。
by syunpo
| 2007-08-04 11:16
| 政治
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Comments(2)
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のるぶ
at 2007-09-15 18:10
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恐るべし外務省。真紀子サンと宗男サンの共産党を“かました”斬り方にはおぞましささえ覚えました。しかし、日本はかくも官僚が国政の中心にいたのですね。(特に外務省は強烈です)
巻末にあった登場人物の写真を目に焼き付けておかなくっちゃ。氷山の一角だと思うけど。
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syunpo at 2007-09-16 09:08
のるぶさま、
人通りの少ないブログにコメントありがとうございます。 「恐るべし外務省」……そう感じた読者は多いでしょうね。「伏魔殿」の実態は、私たちにどれほどの割合で知らされていることやら。 巻末の顔写真をみながら「こいつが、あの趣味の持ち主か」とか確認していくのも一興ですね(笑)。 ところで最近の鈴木宗男氏は、野党に転じたこともあってマスコミにマイクを向けられた時には「正論」を述べる機会が増えたように思います。ちょっと注目しています。
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