●上杉隆著『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』/新潮社/2007年8月発行
「神輿に乗る者は、軽くてバカの方が良い」とは、小沢一郎の名言(?)だが、それは担ぎ手が賢い、という前提あってのこと。バカがバカを担ぐと、どうなるか?……それを描いたのが本書である。 安倍晋三内閣のスタートから崩壊まで、未熟なリーダーとその周囲に集った未熟な側近たちの言動が克明に活写されていて、あっという間に読み終えてしまった。お友達内閣といわれていた割には、取り巻き連中が互いに牽制しあい、手柄を競いあっていた様子がよく取材されている。 チーム安倍のパブリシティ対策を一手に引き受けていたはずの世耕弘成が、案の定、塩崎恭久官房長官と衝突していた事実は、象徴的だ。世耕が当初、首相のぶら下がり会見の事前レクチャーにすら参加を拒まれていたのはけっこう笑える。その反動からか、本分を忘れて自身の政権への影響力を誇示するためにコメントを発したりしていたらしい。 また塩崎官房長官は、安全保障担当補佐官の小池百合子とも外交交渉や日本版国家安全保障会議の設置問題において稚拙な鞘当てを演じ、兄貴分の中川秀直幹事長は余計なスタンドプレーで肝心の安倍との関係を悪化させていく。 首席秘書官の井上義行が秘書として裏方に徹しきれず表舞台でも自己顕示欲を示したり、教育再生会議を仕切る総理補佐官の山谷えり子が頓珍漢なNHK批判を始めたりする場面なども、いかにも安倍内閣に相応のおバカなエピソードといえる。 山本一太が勝手に安倍応援団を自認して周囲から顰蹙を買いつつも、組閣後に安倍自身から電話を受ける挿話からは、安倍の取り巻きが安倍に忠誠を誓う理由の片鱗が読み取れて興味深い。 私なりに整理すれば、個々の政治家や秘書官の迷走ぶりもさることながら、ここには「失敗学」としての組織論も論述されている。首相官邸を強化するために拡充した総理補佐官や乱発された内閣府直属の会議が、既存の責任者や担当部署と軋轢を起こし結果的には政権内部の混乱を招いたこと。まさに「船頭多くして舟山に登る」状態が現出したのである。 本書刊行直後に安倍内閣は本当に「崩壊」してしまった。現在進行形の権力批判のはずが、政権への挽歌となってしまったのは、本書にとって良かったのか悪かったのか……!?
by syunpo
| 2007-10-05 11:30
| 政治
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