●佐々木毅著『民主主義という不思議な仕組み』/筑摩書房/2007年8月発行
若年層向け新書シリーズの一冊ということで、政治への積極的な関わりを訴えるメッセージが色濃くでた本である。 考えてみれば、「何千人もの人々が投票をして政治の行方を決定するというのは、全く気の遠くなるような話」で、民主主義とは、大変な手間がかかるしお金もかかるやり方といえる。 民主主義という政治の仕組みの「不思議」さ、あるいは「不自然」さを指摘したうえで、そのより良い運用を考える、という趣旨の本は数多くでているが、若者向けの新書という形式を借りているだけあって、本書はわかりやすく懇切丁寧な記述内容となっている。 とくに目新しいことを書いてあるわけではないけれど、ウォルター・バジョットや福沢諭吉など、要所での文献の引用のしかたが上手い。 「政治とどう対面するか」を論述した第五章では、福沢諭吉が政府と人民との関係について、相互に一定の「約束」に基づくドライな関係であることを「政府の商売」という言葉で述べていたことを紹介したり、第二章で代表制民主主義の誕生を概説するくだりでは、大統領制と議会制の違いをバジョットの『イギリス憲政論』を引いている箇所など、たいへん面白く読んだ。 より合理的な「利益政治」の実現の必要性を説きつつ、教育や医療などの領域における政治の役割を強調している点など、当たり前の主張ながらも退屈することなく読みとおすことができた。 本書を読んで、政治の原理に関心を持つことのできた読者ならば、その余勢をかって飯尾潤の『日本の統治構造』へと進めば、政治システムへの理解はさらに深まることだろう。
by syunpo
| 2007-12-04 18:30
| 政治
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