●山口二郎著『ポスト戦後政治への対抗軸』/岩波書店/2007年12月発行
著者のいう「戦後政治」の枠組を崩壊させた小泉政権の後、二〇〇七年の参議院選挙では自民党が大敗し、政権交代が現実味をおびるなかで新たな政治構想が強く求められる局面を迎えている。本書は、現代を「ポスト戦後政治」の時代と位置づけ、自公政権によって推進されている新自由主義的な政治に対していかなる対抗軸を構築していくべきかを考察したものである。二〇〇四年の著作『戦後政治の崩壊』の続編ともいえよう。 ヨーロッパでは社会民主主義的政策を掲げる政党が政権を得る(奪還する)ことが可能になったのに対して、日本で選挙による政権交代が何故実現しないのか。本書の前半で、山口はこの問題に分析のメスを入れている。 それは旧社会党の失敗学としての記述にならざるをえないのだが、基本的には「万年野党」的な抵抗政党としてのアイデンティティから脱しきれず、安全保障政策をはじめとして政権の座についた時の現実的構想をまったくもっていなかったこと、自民党に対する確固とした社会民主主義路線を明示することができなかったことなどが原因で政界再編のなかで解体していかざるをえなかった。英国の労働党が旧来型の福祉国家ビジョンを乗り越える「第三の道」路線をベースにグローバル化に即した教育・労働政策を掲げて国民の支持を得たのとは対照的である。 小泉政権が「リスクの個人化」を押しつける新自由主義的政策をとりながら、国民の幅広い支持を調達することができたのは、それが腐敗した古い政治への唯一の対抗軸として差し出されたことが大きい。市場原理を導入することで官僚支配による裁量的政策の弊害を一掃できるかのようにみえたのである。しかしその後、医療現場の混乱やワーキングプアの増加など構造改革の歪みが顕在化し始めた。 そこで著者は、そのような新自由主義にとって代わるための対抗軸を打ち出す必要性を力説する。それは、自民党が行なってきた地元への利益誘導型の疑似社民主義に回帰することではもちろんなく、本来的な意味での社会民主主義的な政治である。 「平等」の理念を基本として、透明感の確保された普遍的なルールのもとで富を再分配する仕組みを構築すること。財政赤字に対する明快な打開策を打ち出すこと。社会保障や地域支援などに関して社会を分断している制度を改正し、そのことによって公的セクターの信頼回復を目指すこと。 それらは、とりもなおさず人間社会の「持続可能性」を追求するために必要不可欠な政治の営みなのである。
by syunpo
| 2008-03-28 10:16
| 政治
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